【コラム】本八幡は「余韻都市」?

コラム

公開日:2022年12月22日

先日、市川市の文化の殿堂、「市川市文化会館」に関する記事を公開しました。

この記事の後半に、こんなことを書きました。

コンサートを見終えた後、食事をしてから帰りたいと思う人が必ず一定数います。以前、あるバーの店主さんが、Twitterで、「今日は●●さんのライヴが市川市文化会館で行われますね。ライヴ後に一杯飲みたい人は、是非うちのお店にお越しください。店内BGMで●●さんの曲が流れますよ」というような発信をよくしていました。このような地道な発信は有効だと思います。

本八幡駅周辺の飲食店マップを、オンラインに掲載したり、リーフレットにして市川市文化会館や駅コンコースに置いておくことで、「コンサート終わりに空腹を満たしたい」という人のニーズに応えられます。来年フリスタでやってもよいな、とも思います。

出所:特別非営利活動法人フリースタイル市川公式Webサイト、「【市川ちょっと話】令和4年の市川市文化会館」(2022年12月17日)、https://fs-ichikawa.org/chotto_banashi008/、2022年12月22日閲覧

これは、コンサート終わりに空腹を満たすために飲食店に行きたいと思うたくさんの人を、本八幡界隈のレストラン、居酒屋、バー、スナックなどが積極的に受け入れても良いのにな、という、私なりの「余計なお世話」です。

今日は、この「余計なお世話」をもうすこし引っ張って話をしてみたいと思います。

今、読みたい本「余韻都市」

上の記事を書いた数日後、東京駅前のOAZOにある書店「丸善」(丸の内本店)で、都市計画・まちづくりの本の売場をうろうろしていた私は、視界の端で、こんなタイトルの本を捉えました。

余韻都市よいんとし―ニューローカルと公共交通」※1
※冒頭の画像はこの本の表紙の一部です。

2022年3月に鹿島出版会から発売されたこの本を手に取り、パラパラとページをめくると、何やらとても面白そうです。

楽しいコンサートや演劇を見終えた直後は、満足感でいっぱいなれど、帰りの電車の混雑を思うと、のんびりしていられず、急いで駅に向かい、帰途に就かざるをえない――という、その都市で見たばかりの文化・芸術の余韻に浸ることもできない、せっかく訪れた街を慌ただしく去らねばならない、というのは残念だ、というようなことが書かれていました。

文化の殿堂、市川市文化会館を抱える都市・本八幡のことを考える上で、この本にはヒントになりそうなことがたくさん書かれているような気がします。

本八幡には、他にもライブハウス(例えば Route Fourteen , Musician’s Bar B-flat)があります。鬼高には、文学ミュージアムもあります。コルトンプラザには映画館もあります。市川SCが試合をする北市川フットボールフィールドの近くのバス停(霊園入口)と本八幡駅の北口のバス停の間を京成バスが走っています。文化、芸術、スポーツなどに親しんだ後、本八幡駅の周辺で、その余韻に浸ることはできるのでしょうか。余韻に浸りやすいと言えるでしょうか。

その日は既に本を1冊購入済で、これから丸善で買うつもりで手に持っていた本が他に2冊あったので※2、「余韻都市」は買わなかったのですが、後日調べてみると、この本は是非読んでみたいと思えるような章立てになっていました。今日現在(2022年12月22日)、未読なれど、いずれ購入します。特に面白そうだと感じた章を紹介します。

1章 コンサートホールや劇場への「行きやすさ」が人々を幸福にする

1.文化的な娯楽と幸福感
2.娯楽への「アクセスの良さ」が人を幸せにする
3.「余韻」の意義
4.「交通アクセス」と「余韻」の価値

4章 海外都市から学ぶ余韻と公共交通

1.学ぶ意義のある三都市について
2.ロンドン ウエストエンドのナイトモビリティ
3.ニューヨーク・タイムズスクエア 道路空間再配分
4.ウィーン都心地区 芸術年をつなぐ多彩なモビリティ

5章 ニューローカルな都市と公共交通のエッセンス

1.「余韻」の意味
2.移動の意味再考
3.「余韻」の空間のしつらえとスケール感
4.文化的機能を支える仕掛け
5.交通システムのリデザイン 公共交通に関わる空間の意味再考
6.全体をつなげるための概念再構成

著者は「中村文彦+国際交通安全学会 都市の文化的創造的機能を支える公共交通のあり方研究会」ということで、都市交通のあり方を議論している部分が多い印象です。私自身、かつて、大学と大学院では都市交通を専攻していたこともあり、都市交通への興味を今も持ち続けています。ああ、早く読みたい!

この本を読んだ人の感想コメントをネット上で見つけたので、(読んでいない私が)紹介します。

平たく言うと劇場やコンサート会場等へのアクセスが悪かったり、周辺施設がなかったりすると文化体験の余韻が削がれるという話が入口にあったので、「うるせ〜!アクセス悪かろうが周辺施設がなかろうが、オタクはギュウギュウの西武池袋線の中でもTwitterにレポを書くし、どこまでも行くんだたとえそれが片道10時間の太平洋の向こう側でも!!!」と思ったが、確かに帰りの電車で押しつぶされたくないがために早めに切り上げて電車に乗ることはあるし、車以外の手段で会場にアクセスできてそして居酒屋がそこにあるからこそオタクと飲みながら早口で3分に1回「いや〜よかった…」という話を繰り返しできるんだよなぁとは思った。

出所:ブクログ「余韻都市――ニューローカルと公共交通」の感想(azさんによる感想、2022年9月19日)、https://booklog.jp/users/az3104/archives/1/4306073602、2022年12月22日閲覧(太字は筆者)

同好の士と、美味しいワインを飲みながら、あるいはアツアツの炒飯を食べながら、今夜のステージは良かったよね!と語らうのは楽しいものです。

市川市文化会館で文化的・芸術的な体験をした後、美味しいワインを飲みながら語らうのに良いお店の1つが南八幡にある「カフェミエーレ」さんです。また、そのすぐ近くの町中華「旺華楼」さんで焼き餃子や炒飯を食べながら興奮冷めやらぬバディと感想を語り合うのも素晴らしい余韻の楽しみ方だと思います。

イタリアンバル「カフェミエーレ」
https://www.cafe-miele.com/

餃子や炒飯が絶品の旺華楼おうかろう※3
https://tabelog.com/chiba/A1202/A120202/12004375/

メモ その1:シンポジウムにおける中村文彦氏の話

2022年3月8日に開催された、IATSS 2120 プロジェクト・出版記念シンポジウム「余韻都市―ニューローカルと公共交通」の様子がYouTubeで公開されていたので、視聴しました。

シンポジウムの中で、プロジェクト・リーダーの中村文彦氏(東京大学特任教授)が、書籍「余韻都市―ニューローカルと公共交通」の概要を説明していました。

以下は、中村氏の講演を視聴しながら書き留めたメモです。メモなので、読んだだけでは何が何だかわからないと思いますが、よくわからない、でも何だか面白そう、と思った方は、YouTube動画を視聴するか、書籍「余韻都市」を読んでみてください。

未来の都市に何が必要か?
・sustainability 持続可能性
・creativity 創造性
・diversity 多様性

公共交通のあり方
これまでは
 通勤ラッシュ対応
 高齢者を病院まで運ぶ
これからは
 バス停まで歩くのも楽しい
 みんなが公共交通を信頼している状態

都市の中心に文化的創造的機能を置く
美術館や博物館に行く、コンサートに行く、踊る、プロレスを見る、落語を聴きに行く時、始まる前のワクワク、終わった後の余韻が大事
ワクワクと余韻を支える公共交通と空間設計が必要
※機能という語には引っ掛かりを少し感じるが…
業務や商業など経済活動中心から脱却する
従来、余暇と位置付けていたものこそ人間生活の中心と位置付ける

機能をつなぐ動線空間
地区スケールの文化的創造的機能の構成要素

石川栄耀の4要素に追記
①劇場機能:演者と観客の関係性がつくるコンテンツ
 音楽、演劇、スポーツによる創造性
②広場機能:①を施設外へ拡張、展開できる場
③交通機能:あらゆる人が①、②へアクセスしやすい環境
④飲食機能:①を楽しむ前/後の活動、コミュニケーションの場
  + 
⑤つなぎの機能:①~④の機能を一体的に楽しみ、体験できる動線

・助長要因:ゆとりのある移動手段、①に配慮した景観など
・阻害要因:交通安全面でのリスクなど

余韻を支える新しい価値の移動
目標
 ライフスタイルを支え、ひきつけるのが交通
 移動自体も楽しい場面もある
  混雑や渋滞の中の義務的交通は主役ではない
 徒歩、自転車、公共交通を選ぶことが楽しくなる場面を増やす
  それらが都市の問題解決、未来の都市をひっぱる原動力になるように仕掛ける
  これらを選ぶことは楽しいし、選ぶことがかっこいい
方向性
 アクセスしやすさの演出
 「わくわく」と「余韻」を楽しめること
 多様な移動の価値を味わえること(ゆっくり動くことの価値を含む)

自動車中心からの脱却
自動車移動者だけが幸せなのではなく、自動車以外の移動手段を選ぶ人も幸せを感じられるように

余韻を支える新しい公共交通へ
これまでは
 安全は基本として、円滑であること
 短時間と低費用が最優先
これからは
 多様な価値
  急がない
  ゆっくり動くこと
  待つことが楽しめること
 景色が楽しい
 車内が楽しい
 一緒に過ごせる or 一人で過ごせる
 降りた先のワクワク
 乗ってからも余韻が続く
 通勤通学向けの設計の流用ではないもの

多様なマネジメント
 運営費用負担、運賃制度、支払方法の多様化 予約や決済の多様化
 具体提案例
 1.駅回りワクワク余韻空間
 2.余韻を味わう帰路輸送
 3.余韻と移動込みのチケッティング
 4.車両と駅の設計再考

まとめ 
通勤通学一辺倒の都市や交通への疑問から議論がスタートした
文化的創造的機能中心+余暇と余韻の再発見へ
移動を価値合理的なものへシフト
公共交通(自分で運転しない+乗合)でこそ実現へ
 ワクワク&余韻の空間設計+割引運賃と帰路支援(タクシーも活用)+車両や施設設計再考

メモ その2:シンポジウムにおける藤井聡氏の話

シンポジウム内ではパネルディスカッションが行われていました。パネリストの藤井聡氏(京都大学教授)の話を視聴しながら書き留めたメモを掲載します。

人間にとって芸術・文化はきわめて重要
近代化の過程で、効率化の名の下、芸術・文化は切り捨てられてきた
デフレ不況下でその傾向は加速、コロナ禍でさらに進んだ

日本人は文化・芸術体験が少ない~調査結果より

1年間に「コンサート」に行く回数
 ニューヨーク: 15.2
 ロンドン  : 10.5
 東京    : 2.6

1年間に「ミュージカル」「演劇」を見る回数
 ニューヨーク: 17.0
 ロンドン  : 13.9
 東京    : 1.5

1年間に「スポーツ」をする回数
 ニューヨーク: 109.0
 ロンドン  : 104.7
 東京    : 64.2

1年間にテーマパーク回数
 ニューヨーク: 12.2
 ロンドン  : 18.5
 東京    : 5.6

1年間に美術館に行く回数
 ニューヨーク: 13.6
 ロンドン  : 13.5
 東京    : 6.8

1年間に動物園・水族館・博物館に行く回数
 ニューヨーク: 5.8
 ロンドン  : 10.0
 東京    : 2.2

分析結果(因果関係を証明するのは難しいが)
芸術に関する都市娯楽活動頻度(映画鑑賞、ミュージカル観劇、コンサート鑑賞)が高い人は日常生活の満足度を表す「認知的幸福感」が高い

都市交通の設計について
日本の土木構造物、交通インフラの整備において工学部(土木工学など)が果たした役割が大きい
日本の大学はアメリカ式の工学部を輸入した
日本では道路設計を工学系の人たちで行う
これに対し欧州では芸術系の人、デザイナーなどが関わる

メモは以上です。

藤井聡氏は他にも様々な話をしていましたし、他のパネリストの話も大変興味深い内容でした(例えば、マックス・ウェーバーの、目的合理性、価値合理性、感情的行為、慣習的行為の考え方を、余韻と豊かさを生み出す都市と関連付ける等)が、本稿では取り上げません。興味のある人はYouTube動画をチェックしてみてください。

本八幡で文化芸術を体験した後で余韻に浸ろう

書籍「余韻都市―ニューローカルと公共交通」をまだ読んでいないにも関わらず、あれこれ書き連ねてしまいました。近いうちに読み、考えたことを、改めて綴りたいと思っています。サンタクロースがこの本を届けてくれることに一縷の望みをかけつつ…4

今夜、これから市川市文化会館で行われる公演を観に行く人は、思う存分楽しんでください!そして、終わったら是非本八幡でグルメを堪能して――本八幡の地で余韻を味わって――ほしいと思います!

本八幡グルメ(モトグル!)について知りたい方は、このサイト(本八幡グルメの総本山とも言うべきWebサイト)を参考にすると良いでしょう。

モトグルマガジン
https://magazine.motoguru.jp/

それでは、行ってらっしゃい!楽しんで来てください!

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* * * * *

〈注釈〉

※1:「余韻都市―ニューローカルと公共交通」の出版社、鹿島出版会のWebサイトに掲載されている書籍紹介を引用します。

時間経験としての都市。観劇やスポーツ観戦後の余韻を楽しむ都市計画とモビリティを考える――「余韻都市」の実装へ。

公益財団法人国際交通安全学会 (International Association for Traffic and Safety Sciences :IATSS)の二〇一八年度から三か年にわたる研究調査プロジェクト「都市の文化的創造的機能を支える公共交通の役割」の研究成果をとりまとめ、未来の都市のあり方、それを支える交通、特にいわゆる公共交通の考え方、役割について提言するもの。
都市の歴史的文脈、文化的体験の種類の多様性に留意し、都市の中での時空間の意味、移動の意味の再考に踏み込み、その上で、公共交通につながる空間の課題、交通結節点や車両を含む公共交通のインフラの課題、公共交通を支えるシステムの課題に触れ、連続性やスケール感、移動の選択肢や自由度、情報提供や運賃制度も含めたMaaSの動向も踏まえた提言となっている。

出所:鹿島出版会公式Webサイト、「余韻都市―ニューローカルと公共交通」書籍紹介より

※2:2022年12月21日に丸善(丸の内本店)で買ったのは、雑誌『エトセトラVOL.8』(鈴木みのり・和田彩花特集編集「アイドル、労働、リップ」)と辻本力著『失われた雑談を求めて』です。

3:旺華楼(おうかろう)で2022年12月21日の夜に単独入店した私が喫食したものは以下の通りです。上から順に、「焼き餃子」、「ネギチャーシュー」と「杏露酒(ロック)」、「鶏肉とカシューナッツの炒め物」で、これ以外に「生ビール」をオーダーしました。

※4:市川市の小さな楽団「ノスタルジー&ルミエール」が開催する音楽会@本八幡で良質の音楽を堪能した後で、その余韻に浸れる場所があると良いですよね。本八幡に。その「ノスタルジー&ルミエール」によるクリスマスソングはこちらです。

ペケマスじゃないよ
https://soundcloud.com/user-26725798/gfpoajpeyyyw

2022年12月19日に全世界に向けて公開されたノスタルジー&ルミエールによるペケマスソング(クリスマスソング)、「ペケマスじゃないよ」のジャケット写真。コルトンプラザのクリスマスツリーです。2022年版の。