【コラム】市川市議会で「スフィア基準」への言及がありました(2022.9.21)

コラム

「スフィア基準」とは何か

先日、市川市議会の会議録を流し読みしていたら、2022年9月定例会の一般質問で、市議会議員から「スフィア基準」への言及があったという事実を知りました。

私が知っている範囲では、Webサイトで検索できるようになっている会議録には、これまで、「スフィア基準」という語は登場していませんでした。が、2022年9月21日に、つちや正順議員が一般質問の中で、この語を発し、これが会議録に掲載されたため、市川市公式Webサイトでこの語を検索すると、下記Webページがヒットするようになりました。

市川市議会 2022年9月21日
https://www.city.ichikawa.lg.jp/cou01/kaigiroku0000416251.html

ところで、「え?スフィア基準?それ何?」とお思いの方もいらっしゃることでしょう。当サイトでは過去にこれについて簡単に説明したことがあります。

避難所が満たすべき「スフィア基準」
「【コラム】災害に備え、デマを拡散させない」
https://fs-ichikawa.org/disaster/#toc3

元は紛争の影響を受けた人を支援する活動で得られた知見をまとめたもので、紛争のみならず、災害発生時の、被害を受けた人たちへの支援のあり方を、特に、守られるべき人権などを考慮して、定められた基準です。

スフィア基準とは通称であり、正式名称を『人道憲章と人道支援における最低基準』といい、災害、紛争の影響を受けた人の権利、その人たちを支援する活動の最低基準について定められています。ハンドブックという形でまとめられおり、1998年に初版、2004年、2011年と発行され、2018年第4版は約400ページに及んでいます。

(中略)

スフィア基準は、「スフィアプロジェクト(またはスフィア)」とよばれる活動がもとになっています。スフィアプロジェクトとは、紛争の影響を受けた人たちへの支援でみられた、課題の解決に向けておこなわれた活動のことです。

出所:防災新聞、「スフィア基準を分かりやすく解説!『避難所だから仕方がない』を変えるガイドライン」(2022年7月14日)、https://bousai.nishinippon.co.jp/729/、2022年8月26日閲覧

「スフィア・ハンドブック」
https://jqan.info/sphere_handbook_2018/
こちらから閲覧・ダウンロードできます。

9月の市議会で、つちや議員から、どのような発言があったのか、会議録から引用します。

今日は避難所ということで、少し具体的に中身の話をさせていただきましたけども、やっぱり大事なのは、その大枠の考え方、理想の避難所というもの、あるいは支援ですね。住民に対する災害支援というものはどういうものであるべきかという大枠、理想が必要だと思うんですね。そこから定量的に、今言った備蓄量だとか、いろんな備品ですとか、機能に掘り下げて、そこを目指してやっていくという立てつけ、まずこれが絶対に大事なことだと思うんですけども、そういう意味でこのスフィア基準というのは、国際的な最低基準として、中身の話を言うと、トイレの数、これは20人に1つの数が必要であるとか、トイレの男女比は男性1、女性3、混雑した商業施設へ行けば女性はどうしても列ができてしまいます。ですから、これも当然なことだと思います。さらに言えば、避難所の1人当たりの居住スペースは3.5㎡、畳が約2畳分あることが好ましいと。これが、かつ最低基準であると。我が本市を見てみると、そこを目指してやるんだけども、現実問題、それは物理的にまだまだそこの道は遠いというのはこれは事実としてあるわけですから、そこを目指すんですけども、であるならば、やはり我々として避難者の生活の尊厳ですとか、人道支援を受ける権利ですとか、保護と安全の権利、こういったものを国としてはもちろん、基礎自治体として住民の方々にしっかりとこの権利を守っていくという責務があるわけなんですけども、こうしたことを踏まえて、最後の最後に本市で理想的な避難所をどのように考えているのか伺います。

出所:市川市公式Webサイト、市川市議会会議録(2022年9月21日)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/cou01/kaigiroku0000416251.html、つちや正順議員の一般質問(赤色太字は筆者による)

この質問に対する市職員の回答は次の通りです。

非常に難しい問題だなと、そういうふうにまずは捉えています。理想の避難所、物資のみがそろっている。また、それに合わせて心のケアもする避難所がそろっている。そういった避難所がそろっているだけでは私は駄目だと思っています。やはり復興への、明日への希望、こういうものが持てる避難所こそ理想の避難所に近づいている、そんなことを考えています。

出所:市川市公式Webサイト、市川市議会会議録(2022年9月21日)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/cou01/kaigiroku0000416251.html、水野雅雄危機管理監による回答(赤色太字は筆者による)

つちや議員は「スフィア基準」に言及しながら、市川市では理想的な避難所をどのように考えているのかを質問しました。水野危機管理監は、理想の避難所が備える要件として、以下の事項を挙げました。

  • 物資がそろっている
  • 心のケアをする
  • 復興への希望がもてる

日本では、災害が起きた時に避難所の様子がテレビで放送されると、その映像には、小学校の体育館で雑魚寝をしている被災者が映っている、そんな印象を持つ人も多いのではないでしょうか。避難所では、プライバシーが確保されているのか、ストレスが溜まらないか、気になることが多いですね。復興への希望が持てるような避難所生活が送れるのか、など。

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日本の避難所は外国と比べてどうなのか

日本の避難所について、専門家である榛沢和彦氏は、このように語っています。

一人一人にベッドがないという時点で、欧米人からは「考えられない! つらすぎる」と言われます。さらに災害発生から数日ならまだしも、その状況が1週間、2週間と続くことが信じられないと言います。「その場しのぎ」で作った避難所がずっと続くのは、日本ならではでしょう。中国や台湾の避難所もベッドがあるのが普通です。

出所:朝日新聞デジタル、「欧米の避難所はエアコン、シャワーに食堂も この差なぜ」(2020年9月21日)、https://www.asahi.com/articles/ASN7J3GJBN7BUHBI01Y.html、避難所・避難生活学会の理事でもある新潟大の榛沢和彦・特任教授(専門は心臓血管外科)の話。2022年12月5日閲覧。

地震や台風による水害など、災害が多く発生する日本ですが、外国と比べて避難所のクオリティが低いというのは、すぐに解決すべき優先度の高い課題だと思います。下記の記事は、榛沢和彦氏による、外国との比較による避難所などに関する詳しい解説です。

プレジデント・オンライン
「体育館を避難所にする先進国なんて存在しない」災害大国・日本の被災者ケアが劣悪である根本原因
https://president.jp/articles/-/55248?page=1

この記事から、自治体に関する言及箇所を引用します。

避難所改善などの問題意識は、県の防災担当者には、少しずつ浸透してきたように感じます。しかし被災者支援の中心となる市町村の職員にまでそうした意識が共有できているかと言えば、疑問です。市町村の職員はたいてい3年程度で部署を異動する。経験や問題意識が蓄積されにくい上に、市町村には予算もない。

以前、ある自治体でベッドやトイレ、キッチンを48時間以内に避難所に届ける仕組み作りをしましょうと提案したところ「予算がない」「水や食べ物が先だろう」という反応でした。もちろん水や食べ物も大切ですが、同時にベッドやトイレの導入、温かい食べ物の提供も進めていかなければ、災害関連死は防げないのですが……。

出所:プレジデント・オンライン、「『体育館を避難所にする先進国なんて存在しない』災害大国・日本の被災者ケアが劣悪である根本原因」(2022年3月10日)、https://president.jp/articles/-/55248?page=3、榛沢和彦氏(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 特任教授)の話、2022年12月5日閲覧(太字は筆者)

数年で部署異動する自治体職員の人事体制にも、自治体の組織内に知識・経験が蓄積しづらい原因がありそうですね。今後も数年で異動する人事制度が続くことを前提にするならば、人が入れ替わっても組織に知見が蓄積され、それを活用できるようにし、過去の経験・議論の上に、これから先の議論を積み上げていくようにしていくことが極めて重要だと思います。

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市川市の防災活動

市川市は防災活動に注力していますが、「BJ☆プロジェクト」というものがあることをご存知でしょうか。

これは、「防災女性プロジェクト」の通称で、女性の視点から、災害への備えや、災害発生後の避難所の運営、被災者支援のあり方、復旧対策などについて検討し、実現することを目的とした活動です。以前に当サイトではコラムで取り上げています。

市川市の防災に関する活動について、市川市公式YouTubeチャンネルの動画を2本紹介します。是非、視聴ウォッチしてみてください。

【市川市】災害対策本部立ち上げ運営訓練

イチカワアイズ ~市川市のプロフェッショナルたち~ No.004 地域防災課

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「やさしい日本語」で外国人とコミュニケーションをとろう

市川市には約16,000人の外国人が住んでいます。

平時はもちろんですが、災害時などの緊急事態に、地域に住む外国人とコミュニケーションを取ることは大変重要です。外国人との会話と言うと、反射的に「英語で話さなきゃ」と思うかもしれませんが、市川市に住む外国人のうち、36%は中国人です。中国に次いで多いのはベトナム人、次いでフィリピン人、韓国・朝鮮人、ネパール人と続きます。日本人が英語を学ぶのはもちろん素晴らしいことですが、地域の外国人と会話しようとするならば、「やさしい日本語」を使って話せるようになることも重要です。

「やさしい日本語」について説明した文章を紹介します。

ふだん私たちが使っている言葉が、そのまま外国の人に伝わるわけではありません。
「立入禁止です」と言うと、伝わらないときがあります。これを「入(はい)らないでください」と言いかえると、わかりやすくなります。「避難」という言葉がわからなくても「にげて!」と言えば、通じます。
こんな風に私たち日本人同士が話している日本語を外国の人にも分かるようなやさしい言葉に言いかえると、伝えたいことが伝わりやすくなります。
これが「やさしい日本語」です。

出所:チームやさしい日本語公式Webサイト、「『やさしい日本語』とは」、https://www.teamyasashiinihongo.com/、太字は筆者

「やさしい日本語」を使いこなせるようになりたいと個人的に前々から思っています。来年、一念発起して修得してみようかな、と、今これを書きながら思いました。

出入国在留管理庁
在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html

このWebページには、こんな説明が載っています。

日本に住む外国人が増え、その国籍も多様化する中で、日本に住む外国人に情報を伝えたいときに、多言語で翻訳・通訳するほか、やさしい日本語を活用することが有効です。

出所:出入国在留管理庁公式Webサイト、「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」、https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html

市川市に住む外国人の国籍も実に多様で、年により変動はありますが、概ね100を超えています。各国語を自在に操れる語学力があればよいのですが、非現実的なので、私は上述の通り、「やさしい日本語」を学び、使えるようになりたいと思っています。

平時から地域に住む外国人と「やさしい日本語」を使って交流し、顔見知りになっておけば、災害時にも助けあえるはずです。

正直に申し上げて、当サイトに多く記事を書いている私の使う日本語は、あまり「やさしくはない」と自覚しています。また、私の喋りは早口で、聴きとりづらいものです。「やさしい日本語」を学ぶことで、コミュニケーションの取り方を変えていければ良いなと思っています。一緒に学びたいという人がいたら、是非お声がけください。よろしくお願いします!