【コラム】健康寿命日本一を目指す市川市

コラム

公開日 2023年2月28日

市川市が「健康寿命日本一」を目指していることをご存知ですか?

今日はその話をします。

市川市長が最も重視するテーマは「健康寿命日本一」

田中甲市長による所信表明(2022年6月)の中には、「健康寿命日本一」という表現が3回登場します。

所信表明
https://www.city.ichikawa.lg.jp/common/new02/file/0000404934.pdf

 市川市は、東京都に隣接しているという良好な立地や交通の利便性によって早くから市街化が進み、現在、人口は約 50 万人にも及ぶまちとなっています。
 しかし、都心に進学・就職する際の居住地として、20 代前半の若い世代に選ばれている一方で、20 代後半から 40 代前半にわたる、いわゆる子育て世代が多く転出しています。
 また、65 歳以上の人口の割合も年々上昇しています。子育て世代の転出や、ひとり暮らしの高齢者、認知症高齢者も増加傾向にあることから、今後も少子・超高齢社会の進展により、社会保障経費の増加が見込まれます。
 そこで、本市が持続可能なまちであり続けるために、働くお父さんお母さんが「市川市なら安心して子育てができる」と思っていただけるような環境やシステムをつくることで、子育て世代の定住促進を図ります。
 そして、小さな子どもから高齢者まで、誰しもが健やかに暮らし、お互いを支え合う、健康寿命日本一のまちを目指してまいります。

(中略)

 私が最も重視するテーマとして掲げるのは健康寿命日本一です。誰もが健康上の問題で日常生活が制限されることなく、ハツラツと元気に暮らし、心の健康と体の健康のバランスがとれた、活力あふれる生涯を送れることを願っています。

 そのためにも生活習慣といった個人の健康管理のみならず、潤いのある人間関係を構築することが大切です。さらに、都市基盤が整備され環境にも配慮した「まちの健康」も一体的に捉える必要があります。
 これまで述べた7つの基本政策を総合的かつ多面的に取り組むことで、格差のないまち、健康寿命日本一のまちを目指します。

出所:田中甲市長による所信表明(2022年6月)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/common/new02/file/0000404934.pdf、2023年2月26日閲覧、赤色太字は筆者による

ここで気になるのが、「健康寿命とは何か?」ということですよね。きっと。恐らく。多分。

厚生労働省のe-ヘルスネットというWebサイトには、次のような記述があります。

平均寿命とは「0歳における平均余命」のことで、2019(令和元)年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です[1]。一方、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいい、2019(令和元)年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています[2]。2001(平成13)年から男性の方が女性より健康寿命は延伸しており、男女差も若干縮小しています【図1】。

出所:厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」、https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html、2023年2月26日閲覧。なお、原典のまま引用したため、[1],[2],【図1】とありますが、ここでは注釈や図は引用しません。赤色太字、青色太字は筆者による

と、いうことなのですね。

※ちなみに冒頭の画像の出所は、厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」、https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html(2023年2月26日閲覧)です。

平均寿命と健康寿命の推移(全国、男女別)

上で引用した文章の中で、男女の健康寿命への言及があったので、2010年から2019年まで、健康寿命と平均寿命、および、その差について、推移をみてみます。

出所:厚生労働省・第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会「健康寿命の令和元年値について」(2021年12月20日)より作成、https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf、2023年2月26日閲覧

平均寿命が男性よりも女性が長いことは、よく知られていることですね。健康寿命も同じく女性の方が男性より長いです。ただし、男性は、健康寿命と平均寿命の差が、女性よりも小さいですね。なお、男女とも、平均寿命と健康寿命の差は縮まってきています。

千葉県の健康寿命の推移、全国平均および全国1位との差

続いて、都道府県別の健康寿命のデータから、千葉県の数字をピックアップしましょう。

健康寿命を、全国平均と千葉県で比較します。また、健康寿命を、全国1位の都道府県と千葉県で比較します。

出所:厚生労働省・第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会「健康寿命の令和元年値について」(2021年12月20日)より作成、https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf、2023年2月26日閲覧

2010年、2013年、2016年の千葉県の男性の健康寿命は、男性の全国平均より長かったのですが、この期間に少しずつ平均との差が縮まり、2019年には、逆転され、全国平均を下回りました。

また、千葉県の男性の健康寿命を、その時々の全国1位の都道府県と比べると、その差は拡大しており、2010年には0.12年だったものが、2019年には1.11年と、9年で差が約1年広がってしまいました。都道府県順位は、2010年の3位から、2019年には半分以下の27位にまで下がっています。

女性の健康寿命をみてみます。2010年においては千葉県は全国平均よりも健康寿命が短かったのですが、2013年以降は、全国平均を上回っています。ただし、全国1位の都道府県との差は、2010年から2016年までは少しずつ縮まっていたのですが、2019年には差が開いてしまいました。

参考:千葉市の健康寿命

さて、田中甲市川市長は、市川市は健康寿命日本一を目指す、と言っているわけですが、明示はされておらずとも、それが、市区町村レベルでみたときの日本一を目指していることは言わずもがなでしょう。ところが、市区町村レベルの健康寿命データはなかなか見つかりません。大都市に限定した数字はあるのですが、市川市のデータは含まれておらず。

参考までに、大都市(市レベル)の健康寿命を見てみましょう。

出所:厚生労働科学研究 健康寿命のページ「大都市の健康寿命(2010~2019年)(令和3年度分担研究報告書の付表)」より作成(降順)、http://toukei.umin.jp/kenkoujyumyou/、2023年2月26日閲覧

男女とも、千葉市の健康寿命は大都市同士の比較において、上位ですね。特に女性は浜松市に次ぐ2位!

古いデータ:市川市の健康寿命

少し古いですが、市川市における健康寿命が確認できました。カッコ内は千葉県の健康寿命と差、単位は年です。データ出所:https://city.ichikawa.lg.jp/common/000230493.pdf

男性
2008年 81.58 (< 81.84、差 0.26)
2011年 81.87 (< 82.16、差 0.29)

女性
2008年 84.80 (< 84.88、差 0.08)
2011年 84.77 (< 85.07、差 0.30)

かなり古い資料なので、今は千葉県全体よりも健康寿命が長いのかもしれません。もし、そうでない(2008年や2011年のように市川市の健康寿命が千葉県より短い)のならば、市川市が健康寿命日本一を目指すことは良いことなのですが、通過点として千葉県内の自治体で1番になるという中期的または短期的な目標を掲げてはどうかとも思います。

健康寿命日本一を目指す地域は多い

  • 大分県、新潟県、神奈川県、奈良県、秋田県
  • 埼玉県川越市、神奈川県藤沢市、兵庫県丹波市、新潟県佐渡市、鳥取県琴浦町

今、挙げた県、市・町は、時期にはバラツキはあれど、健康寿命日本一を目指している(または、目指していた)という共通点があります。探せばもっとたくさん見つかるでしょう。

何らかの指標で「日本一」を目指すということは、そう簡単ではありません。にもかかわらず、多くの市が、県が、健康寿命日本一を目指しているという事実があります。健康寿命日本一を目指すことを否定する住民はいないはずなので、掲げること自体は容易なのでしょう。

健康寿命を○年にする、という目標ではなく、日本一になる、という目標は、都道府県や自治体の政策目標としてみた場合、よくあるものなのか、それとも異例なのでしょうか。

長嶋茂雄選手は父との約束「日本一の選手になる」を果たしました

長嶋茂雄さんは、学生時代に父を亡くしたのですが、亡くなる直前、病床の父から、「茂雄、やるからには日本一の野球選手になれ」と言われたそうです。結果として、日本一の野球選手になりました。それは、ヒットを最も多く打った、というようなこととは少し違っていて、そのような定量的なこともありますが、プロ野球を象徴する存在、アイコンになった、というようなことだと思います。

長嶋茂雄さんといえば、市川市とは並々ならぬ関係にある、ということは、皆さん、ご存知ですよね?

おわりに~タニタヘルスリンクとの連携~

市川市が目指すという健康寿命日本一。少し前に、市川市が、こんな協定を結んだということが報じられました。

市川市と株式会社タニタヘルスリンクは、市民の健康づくりの推進に向けた取り組みについて包括的に連携・協力することにより、市川市が掲げる「健康寿命の延伸」を実現することを目的として包括連携協定を締結しました。

出所:市川市公式Webサイト「株式会社タニタヘルスリンクとの包括連携協定締結について」(更新日2023年1月24日)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/pla01/0000417174.html、2023年2月26日閲覧

健康寿命日本一のまちを目指す、と、市長が旗を掲げている状態にある市川市では、このような動きは今後相次ぐかもしれません。目的と手段、前面に出てくるのが、達成すべき目的であることを願っています。