公開日 2023年3月13日
一昨日の2023年3月11日は、東日本大震災が発生した2011年3月11日から12年目でした。
一昨日は、被災直後の体験を語るもの、死者に対する慰霊に関するもの、防災・避難の重要性を説くもの、復興が進んでいる状況を伝えるものと、今も道半ばだというものなど、様々な角度からの情報発信がみられました。
本稿は3.11からは敢えて2日遅れたタイミングで公開しますが、強いてその理由を挙げるならば、当日は多くの人が、メディアが、震災関連の情報を発信するため、わざわざフリスタが発信しなくてもよいかな、という思いがあったこと、そして、その日に発信しても他の情報に埋もれる可能性があるという、この2点です。
これまでも、フリスタのWebサイトでは、災害、防災、避難などに関する記事を公開してきました。
【コラム】災害に備え、デマを拡散させない
【コラム】市川市議会で「スフィア基準」への言及がありました(2022.9.21)
【防災キャンプアカデミー】防災備蓄品もおいしくやくそく宣言!
本稿は、「【コラム】災害に備え、デマを拡散させない」にも通ずる内容です。この記事は是非、全文を読んでいただきたいのですが、ここでは一部を紹介します。
関東大震災が発生した後、
朝鮮人が暴動を起こしているという流言(根拠のないうわさ、デマ)が広がった
↓
民間の自警団が朝鮮人を暴行、虐殺した
↓
政府(官憲)が流言を事実と誤認し、朝鮮人殺傷事件を引き起こした
↓
政府の行動が民間の自警団の暴走を助長したということが起きたのです。本当にひどいことです。
関東大震災の発生直後には、悲しいことに市川市内でも朝鮮人が殺害されています。
出所:特定非営利活動法人フリースタイル市川公式Webサイト、「【コラム】災害に備え、デマを拡散させない」(2022年8月31日)、https://fs-ichikawa.org/disaster/、2023年3月12日閲覧
今から100年前に発生した関東大震災(1923年9月1日)の発生時に広がった流言・デマ、今どきの言葉で言えば、フェイクニュースがもたらした最悪の出来事を説明したものです。
過去の災害時に発生した流言を収集して特徴を分析した研究もあります。論文の「研究の背景と目的」から一部を紹介します。
災害時には様々な流言が発生し、適切な情報共有を妨げ、被災地での緊急業務や支援活動に支障をきたしたり、人々を不安にさせたりといった問題を引き起こしている。過去においても大災害が発生すると、必ずといっていいほど「流言」が発生していることが、多くの文献や論文において指摘されている[1]。日本においては、1923 年関東大震災では、地震直後から、「朝鮮籍の人たちが放火をした」、「朝鮮人が井戸に毒を投げた」などという流言が広がった[2]。1995 年阪神・淡路大震災では、地震のほぼ 1 週間後から「また大きな地震がやってくる」、「震度 6 の大地震がやってくる」という流言が被災地とその周辺に広がっていった[3]。2011 年東日本大震災では、「外国人窃盗団が横行し、強盗や強姦が相次いでいる」と市民に注意を呼びかける流言が広まった[4]。
このような災害時の流言は様々な問題を引き起こしている。1923 年関東大震災では、先述の流言が引き金の一つとなって、虐殺事件などの大混乱が発生した[2]。
出所:木村 玲欧、岩尾 文香「災害時に発生する流言の特徴~過去の災害時における流言事例の特徴分析」、17th World Conference on Earthquake Engineering Conference Proceedings, No.7f-0001/12pp/2020.09、https://kimurareo.com/images/2021/07/20WCEE_Reo_01_7f-0001_Japanese.pdf、2023年3月12日閲覧(太字は筆者)
この論文では、453 件の流言事例を、その内容をもとに災害発生後の時間経過の観点によって、6つに分類しています。6つの大分類と、それらに含まれる20の中分類は以下の通りです。
1.災害の原因を憶測する「災害因情報」
「震源地はたぶん○○である」という「震源地に関する根拠のない類推」
「敵対国が地震兵器で日本を攻撃した」「○○(新興宗教団体)の開発した兵器の仕業だ」などの「非現実的な災害因」に関する流言
2.災害が再びやってくるという「災害の再来」
「再び○月に震度○の揺れがやってくる」「○○(場所名)で水蒸気爆発が起きる」といった「災害再来の肯定」
「もう地震はこない」「1ヶ月後に大きい余震がくれば地震はおさまる」と「災害再来の否定」
「○○で噴火が起こった」などという事実ではない「災害再来の情報」
3.災害による直接的な被害についての「災害による被害(一次被害)」
「○○(場所)が壊滅した」「ダムが決壊した」という事実ではない「物的被害」
「ダムが決壊して死んだ人がいる」「○○(地域名)の人間、急いで救急車を呼んで!」といった事実ではない「人的被害」
4.災害によって発生した二次被害についての「災害による被害(二次被害)」
「窃盗団が被災地で物資を強奪している」「レイプが多発している」といた「犯罪」に関する流言
「刑務所の外壁が壊れて受刑者が逃走した」という「脱走・逃亡」に関する流言
「石油コンビナートの爆発で有害物質が混ざった黒い雨が降る」という「有害物質の発生」に関する流言
「破傷風が発生した」「赤痢が発生した」という「伝染病」に関する流言
「餓死者が出ている」「世の中を悲観して自殺者が出ている」という「災害関連死」に関する流言
5.様々な人物・組織の「災害対応」に関する流言
「○○(有名人)が被災地の外に避難した」「○○市の災害対策本部が市外に逃げ出した」という「関係者の避難」に関する流言
「○○(政治家)が○○という発言をしたそうで、政治家としての資質に欠けている」といった「関係者の発言」に関する流言
「電力会社からの送電が間もなく開始される」「物資の空中投下がなされるようだ」といった「被災地支援」に関する流言
6.被災地での毎日の暮らしや復旧・復興に関する「被災地での生活」についての流言
「有害物質が混ざった雨が降るので必ずレインコートを着用する」「うがい薬が放射能対策に有効なので備えておく」といった「安全確保の方法」に関する流言
「火災の火の粉がかなり先まで飛んで、半焼けの紙幣が地方の民家にたくさん降ってきたらしい」といった「非現実的な現象」に関する流言
「○○(場所)に行けば何でももらいたい放題だ」「明日、避難所の○○小学校で肉 100 キロを焼きます」といった「物資の配給・炊き出し」に関する流言、
「国道の代替ルートが開通した」「病院は行っても手当してもらえない」といった「施設等の利用」に関する流言
「授業が再開されたらこの学校から避難者が追い出される」「避難所を出たら仮設住宅への入居資格がなくなる」といった「避難所」に関する流言
情報出所:木村 玲欧、岩尾 文香「災害時に発生する流言の特徴~過去の災害時における流言事例の特徴分析」、17th World Conference on Earthquake Engineering Conference Proceedings, No.7f-0001/12pp/2020.09、https://kimurareo.com/images/2021/07/20WCEE_Reo_01_7f-0001_Japanese.pdf、2023年3月12日閲覧
12年前の東日本大震災発生の後、Twitterでは様々な流言が飛び交いました。以下の2つの画像は実際の投稿を加工したものです。良かれと思って、すなわち、善意で、「~~だそうです」「~~らしいです」という真偽不明の伝聞情報を発信してしまうと、それがデマであっても、SNSによって短時間で広く拡散されてしまいかねません。
上記の論文には、
「災害時には流言が流れる」という事実を、過去の具体的な事例とともにしっかり伝えることが重要
だと記されており、そのためには、次のようなチェックが必要だと主張しています。
災害時に情報を受け取った時には、流言に惑わされないためには2段階のチェックが必要
1.内容を疑う(まずは落ち着いて、情報におかしな部分がないか考える)
2.内容を確かめる(テレビや新聞、公式サイト等、複数の信頼できる情報源で公表されているか確かめる)
情報出所:木村 玲欧、岩尾 文香「災害時に発生する流言の特徴~過去の災害時における流言事例の特徴分析」、17th World Conference on Earthquake Engineering Conference Proceedings, No.7f-0001/12pp/2020.09、https://kimurareo.com/images/2021/07/20WCEE_Reo_01_7f-0001_Japanese.pdf、2023年3月12日閲覧
市川市公式Webサイト内には、災害ポータルというページがありますが、私が見てみたところ、「災害時には流言が流れる」ということや、流言に惑わされないために注意すべきことが記されていることは確認できませんでした。
市川市災害ポータルサイト
https://www.city.ichikawa.lg.jp/gen06/saigai.html
情報が高速で目の前を流れていく時代、平素からデマ、フェイクニュースに惑わされず、その拡散に加担しないようにすることを意識して行動することが大事だと思っています。自分は大丈夫、と過信しないように、チェックできるものがあれば良いなとも思います。
災害発生時に、デマ・流言の発生をいかに抑制するか、ということも、防災・減災の一種です。本稿が、そんなことを考えるきっかけになれば幸いです。