【コラム】市川市の「暮らしやすさの客観指標」と「Well-Beingアンケート先行調査」の結果を見てみました

コラム

公開日 2023年1月28日
更新日 2023年2月1日

Web上で公開されている無料のExcelのツールを用いて、たわむれに、市川市の「暮らしやすさの客観指標」※1を算出したので、本日、この場で、皆さんに共有シェアします。

この「暮らしやすさの客観指標」は、身体・社会・精神の健康に関わる地域の生活環境の測定指標です。身体的健康、社会的健康、精神的健康の3つの分野は、それぞれ、10、8、4のカテゴリーから成ります。また、身体的健康を構成する10のカテゴリー、社会的健康を構成する8のカテゴリー、精神的健康を構成する4のカテゴリーは、それぞれ、35、41、18の客観指標で構成されています。

各指標は都市単位で偏差値化されています。対象となっている人口10万人以上の都市の平均が50で、偏差値が50を超えて大きい程、良好な状態であり、偏差値が50を下回って小さい程、良くない状態ということですね。

さっそく、分析結果を見てみましょう。分析といっても、私がデータを集め、加工し、電子計算機コンピュータを駆使して分析を行ったわけではありません。SCI-Japanこと、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発したツールを援用しています。SCI-Japan様、素晴らしいツールをつくっていただき、ありがとうございます!

市川市の「暮らしやすさの客観指標」3つの分野

3つの分野の偏差値は、以下の通りです。

  • 「身体的健康」= 46.4
  • 「社会的健康」= 51.1
  • 「精神的健康」= 50.1

3分野で最も偏差値が高い、つまり、他の自治体と比べて、相対的に良い状態である、という結果だったのは、「社会的健康」でした。「精神的健康」は、僅かに50を超えていますが、ほぼ50と言ってよいでしょう。平均的、ということですね。そして、「身体的健康」は、50を3.6も下回る低いスコアでした。つまり、

  • 「身体的健康」= 悪い
  • 「社会的健康」= 良い
  • 「精神的健康」= 平均的

ということですね。

これだけだと、「・・・で?って言う」※2と突っ込まれかねないので、次のブロックで、身体的健康を構成する10カテゴリー、社会的健康の8カテゴリー、精神的健康の4カテゴリーのスコア(偏差値)を確認します。

市川市の「暮らしやすさの客観指標」22カテゴリー

本邦初公開(たぶん)!このレーダーチャートが、市川市の「暮らしやすさの客観指標」(22カテゴリーの偏差値)です!

出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。

水色の破線が平均=偏差値50を表します。

「都市景観」が68.9と、偏差値70に届きそうなハイスコアでした。

これに続くのは「医療・健康」の54.0で、かなり高い値だと言えます。しかし、「都市景観」との差は約15もあります(「医療・健康」がどうこうということではなく、「都市景観」の偏差値が極めて高いということです)

3位以下は、「教育環境の選択可能性」、「事故・犯罪」、「子育て」、「多様性」、「デジタル生活」、「移動・交通」、「雇用・所得」で、ここまでが偏差値50以上でした。

次に偏差値が低いものを見てみます。

「空気・騒音・清潔さ」が32.2とダントツ※3で低いことがわかります。

ワースト2位以下は、「住宅環境」、「自然景観」、「地域とのつながり」、「遊び・娯楽」と続き、ここまでが偏差値45以下でした。

このレーダーチャートに登場する22のカテゴリーは、いわば合成変数であり、より細かい複数の変数から成ります。

例えば、「医療・健康」であれば、以下の7つの客観指標で構成されています。

  • 健康寿命(男性)(+)
  • 健康寿命(女性)(+)
  • 医療施設徒歩圏人口カバー率 (+)
  • 医療施設徒歩圏平均人口密度 (-)
  • 一人あたり国民健康保険者医療費 (-)
  • 一人あたり後期高齢者医療費 (-)
  • 市町村国保特定健康診断受診率 (+)

その客観指標の値が大きいと、「医療・健康」の偏差値が大きくなる場合に「(+)」、客観指標の値が大きいと、偏差値が小さくなる場合に「(-)」を付けています。全てのカテゴリーについて、それを構成する客観指標を脚注※4に掲載しています。

市川市の「暮らしやすさの客観指標」94指標

それでは、身体的健康に関する「暮らしやすさの客観指標」の偏差値をみてみましょう。指標数が多いので、ここでは言及することはしませんが、偏差値が特に高い指標、低い指標は、要注目です。

出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。
出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。

続いて、社会的健康に関する「暮らしやすさの客観指標」の偏差値です。

出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。
出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。

最後に、精神的健康に関する「暮らしやすさの客観指標」の偏差値をみてみます。

出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。
出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。

たくさんの指標がありますが、気になるものはありましたか?

私が気になった指標を次のブロックでピックアップしてみます。

市川市の「暮らしやすさの客観指標」、ここに注目!

「自治体職員における障害者の割合」の偏差値は59.1とかなりの高水準です。素晴らしいと思います。一方、「人口あたり障害者支援施設数」は39.5と非常に低いですね。行政職員に少なくない障害者の方がいらっしゃるので、是非、市内の障害者支援施設の数を増やす方向にも力を注いでほしいと思います。もちろん、量だけでなく質の面での充実も望みます。

気になる指標といえば、「首長選挙の投票率」の35.7と、「市区町村議会選挙の投票率」の31.2です。選挙における市川市の投票率の低さは目を覆いたくなる低さ、いやさ、ひどさです。詳しくはこちらの記事をお読みください。

投票率が低いことは、そんなに問題視すべきことなの?という疑問に対する回答は、すでに用意しています。こちらの記事にしっかりと書いてあるので、チェックしてみてください。

今、「自治体職員における障害者の割合」の偏差値が約60と高いことを確認しましたが、「自治体における管理職の女性割合」の偏差値は39.4と非常に低いです。ジェンダーギャップの解消は急いでとりくんでほしいことですね。

ジェンダーギャップの解消に興味のある方、なぜそれが必要なのか考えたいという方は、以下の各記事を読んでみてはいかがでしょうか。

人口が50万人弱と、全国の自治体の中でも上位に位置する市川市ですが、「人口あたり~~」の偏差値は、軒並み低水準です。

「人口あたり政治・経済・文化団体の数」 46.8
「人口あたりNPOの数」 46.2
「人口あたり劇場・音楽堂の数」 45.8
「人口あたり飲食店数」 44.8
「人口あたり娯楽業事業所数」 44.5
「人口あたり図書館の数」 43.5
「人口あたり博物館等の数」 43.3

最近でこそ人口の増加にブレーキがかかっていますが、これまで長らく人口が増加を続けてきた市川市において、人口の増加に対応して、施設の量や質の充実を図ってきているとは思いますが、それが追い付いておらず、提供されるサーヴィスが足りないと不満を持つ市民も多いかもしれません。

ちなみに、「芸術家・著述家等の割合」の偏差値は55.4と、かなり高いです。市内在住の芸術家・著述家等の方が、地元で創作活動をし、その成果を展示するなどの方法で市民に広く伝えていくような機会があればよいと思いませんか?

また、市川市以外の自治体について、同じように「暮らしやすさの客観指標」を算出したい人は、注釈※1に記載したスマートシティ・インスティテュートのWebサイトで提供されているExcelツールをダウンロードすれば、簡単に出力できるので、試してみてください。

市川市と近隣市の「Well-Beingアンケート先行調査」結果からわかること

ここでは、全国の34,000人を対象に実施した「Well-Beingアンケート先行調査」の結果を見てみます。上で確認した指標は、客観指標(都市の実態を他の都市と比較して数値化したもの)でしたが、ここで確認するのは、アンケート調査の結果、すなわち、地域住民がその地域を主観的にどのように見ているのか、というものです。

ここでは、市川市と、近隣自治体である船橋市、松戸市、浦安市、そして、最近、若い人が転入するなど、人口が増加し続けている流山市を比較します。nは回答者数です(n数が100を下回る自治体もあり、誤差が大きい可能性もあるため、数値を見る際には参考程度に留めた方が良いかもしれません)。なお、数値ですが、いずれも偏差値です。

出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。

5つの市を横並びで比較すると、流山市は全て、浦安市は1つを除いて、偏差値が50以上という高いスコアになっていることがわかります。

なお、5市とも、「生活の利便性」と「過干渉と不寛容」の偏差値は50以上でした。いずれも、生活の利便性が高く、過干渉や不寛容ということはない、と感じている住民が多いということですね。

上の表の市川市のところを見ると、「51.8③」などと、偏差値の後ろに丸数字が載っていますね。これは、5市の中での順位を意味します。③が3つ、④が1つ、⑤が6つ、①と②は0でした(「地域との相性」は③ですが、同率3位であり、同率最下位でもあります)

他の市と比べて高い、低い、ということに敏感になりすぎることはないと思います。しかし、同率のものも含め、5市の中で最下位なのが10項目中7項目にも上るというのは、(小泉今日子さんの曲に「見逃してくれよ!」という名曲がありますが)見逃すわけにはいかないですね!

さて、市川市民が、自分の住む市をどのように見ているのか、あるいは、市川市に住んでどのようなことを感じているのか、更に細かく見てみます。

出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが開発、提供しているデータおよびツールを用いて作成。【R】は回答結果を反転させて偏差値を算出していることを表しています(例:路上にごみを捨てる人が多い、と回答する人の割合が低いほど、偏差値が大きくなるようにしています)。

偏差値が50以上であることを意味する黄色の網掛け箇所は少なく、多くの項目が偏差値50未満です。中でも、「自然の体感 (45.8)」を構成する3つの項目の偏差値の低さが際立っています。

  • 身近に自然を感じる (45.4)
  • 自然と向き合う喜び (46.4)
  • 空気や水は澄んでいてきれい (45.7)

市川市は南北に長く、局地的に見れば豊かな自然が残っていることは、皆さんご存知だと思います。大町には野生のヘイケボタルいますし、斜面林にノウサギが今でもいることが確認されました。オオタカもいます。アンケート調査に回答した169名の方の多くが「大都会本八幡」にお住まいだったのかもしれません。などと、仮説を立ててもよいのですが、「身近に自然を感じる」の偏差値が低いことを重く受け止めた方が良いと思います。市川市の自然環境保護の活動を考える上で、「身近に自然を感じる人が増えること」を目標にしてはどうか、と思います。

こういう指標や調査結果を議論のベースにしていこう!

せっかく国が(時には県や市が)税金を使って調査を実施したり、データ分析をして、その結果を公表してくれているのだから、それらを可能な限り利用したいと思っています。今回活用したExcelツールのような大変優れた分析の道具を無料で公開してくれていることが、しかし、あまり広くは知られてないのではないでしょうか。

私は幸いにも気づき、戯れに分析をしてみたので、少しだけ考察と言うか感想を添えて、本稿で紹介しました。今後も、誰に頼まれたわけでなくとも、こうしたことを続けていく構えです。引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

* * * * *

〈注釈〉

※1:「暮らしやすさの客観指標」は、Liveable Well-Being City Indicator の一部です。LWC指標という略称で呼ばれることが多いこの指標(Liveable Well-Being City Indicator)は、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(SCI-Japan)が開発しました。これは、客観指標と主観指標のデータをバランスよく活用し、市民の幸福感を指標で数値化・可視化しており、政府が推進する「デジタル田園都市国家構想」において、地域におけるWell-Beingを計測する指標として活用されることになっているそうです。
このLWC指標は、
1)主観的幸福感指標(心の因子)
2)活動実績指標(行動の因子)
3)生活環境指標(環境の因子) :暮らしやすさ
の3つの領域に分類され、全体で5つの指標から構成されています。
暮らしやすさ(Liveability)の客観・主観データは、「身体的健康」、「社会的健康」、「精神的健康」の3つの分野・22のカテゴリー(環境因子)における約140(客観約100、主観約40)の指数で構成されています。
各自治体のLWC指標を算出することで、これを用いることで、市民目線での政策立案(EBPM:エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。 証拠に基づく政策立案)に役立ててほしいという思いが込められています。
…と、長々とLWC指標のことを紹介しましたが、正直、私自身、全貌を把握しきれていません。
本稿で私が紹介した市川市に関するデータは、SCI-JapanのWebサイト(https://www.sci-japan.or.jp/LWCI/index.html)で提供されているExcelツールを用いて算出したものです。このようなツールが開発され、無料で提供していただいていることは大変ありがたいですね。どんどん活用して、まちを客観的に見つめ、まちづくりに生かしていきたいです。

※2:かつてライフカードのコマーシャルで俳優の窪塚洋介さんが発した、〈芸能人になりたいとか、有名になりたいとか、そういうのすごいあったと思うんスよね、ぶっちゃけた話。今自分が日本でどれくらいの人に知られててっていう詳しいことは分からないけど、やっぱ有名になる・・・で?って言う〉(出所:元ネタ・由来を集めるサイト タネタン「でっていうの意味・元ネタ」(2013年6月25日公開、2018年8月19日更新)、https://moto-neta.com/net/detteiu/、2022年12月31日閲覧、太字は筆者)がありました。テレビ番組「SMAP×SMAP」内のコント(2002年頃に放送されていたコーナー)で、香取慎吾さん演じるキャラクター、カボヅカ君が、そのセリフの一部「・・・で?って言う」を連発し、それを記事内で使用したわけです。

※3:「ダントツ」は「断然だんぜんトップ」の略語です。

※4:「暮らしやすさの客観指標」と「カテゴリー」の関係は以下の通りです。

出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート
出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート
出所:一般社団法人スマートシティ・インスティテュート

これらの図表は、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートの資料「市民の幸福感を高めるまちづくりの指標」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai7/shiryou5-3.pdf)からの引用です。