【コラム】「まちづくり」におけるジェンダーギャップ

コラム

先日、「人中心の居心地が良く豊かなまちを実現」することを目指して国土交通省が9月から開講するオンラインスクール(端的に言えば、公務員向けの、人間中心のまちづくりについて学ぶオンライン講座)のカリキュラムや講師が発表されたので、概要を確認しました。

「令和4年度 都市を創生する公務員アーバニストスクール」という名称のこのスクールは、「『つくる』視点から『つかう』視点に重点をシフトし、官民連携の考え方や公共空間の活用事例を学ぶことにより、都市行政の専門性と都市生活者の視点をあわせ持つ『アーバニスト』としての素養を高め、当事者として主体的に考え実践していく公務員を育成する」というものです。

「民間実践者及び地方自治体職員、大学教員等の講師によるe ラーニング形式の講義(計2クール)及び受講生による交流会を行います」と説明されているので、様々なバックグラウンドを持つ講師から、「都市を創生する公務員」として必要な知識や考え方を学べるのでしょう。

発表された講師の顔ぶれは次の通りです(2022年7月26日時点)

  • 中島 直人 氏
  • 島原 万丈 氏
  • 大島 芳彦 氏
  • 宋 俊煥 氏
  • 小島 博仁 氏
  • 山崎 満広 氏
  • 泉 英明 氏
  • 渡邉 浩司 氏
  • 山田 大輔 氏
  • 白鳥 健志 氏
  • 植松 宏之 氏
  • 中山 拓郎 氏
  • 高橋 浩志郎 氏
  • 栗本 光太郎 氏
  • 園田 聡 氏
  • 前田 晃佑 氏
  • 西村 浩 氏
  • 町田 誠 氏
  • 香村 尚将 氏
  • 岩本 唯史 氏
  • 金石 成俊 氏
  • 石田 竜一 氏
  • 伊藤 大輔 氏
  • 矢野 晃平 氏
  • 吉川 稔 氏

残り1名の講師は「候補検討中(学識等)」となっており、その講義テーマは「交流会」です。
驚くべきことに、と言えばよいのか、はたまた、呆れたことに、と言うべきか、発表されている講師25名は全員が男性です。

講師が男性だけで構成されていたことは、直前の7月13日に、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2022年版のジェンダーギャップ指数を発表し、世界各国の中でも日本の男女格差が大きいことが報じられた直後だったこともあり、批判されました。
※冒頭の画像は、 ‘Global Gender Gap Report 2022 – World Economic Forum’, https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2022.pdf, における日本の評価ページです。

日本の2022年版のジェンダーギャップ指数は、後掲するように総合スコアが前年より0.5ポイント悪化しており、ランキングは、146か国のうち116位と下位グループに甘んじています(前年の120位よりも順位が上がっていますが、対象国数が10か国減少しているため、ジェンダーギャップが解消されているわけではありません)

出所:特定非営利活動法人フリースタイル市川Webサイト、「【コラム】市川市議会におけるジェンダーギャップ」(2022年7月14日)、https://fs-ichikawa.org/gender_gap_20220714/、2022年7月29日閲覧

講師が全員男性なのはいくらなんでもおかしいとの批判を受け、国土交通省はTwitterで次のように述べています。

講師の皆様については、女性も含めて検討しておりましたが、 日程等の都合などから最終的にこのような女性講師がいない形となってしまいました。
今後予定している交流会等に女性講師をお願いすることも引続き検討しております。
頂いたご意見を真摯に受け止め今後の取組に生かしてまいります。

出所:国土交通省 公式Twitterアカウント @MLIT_JAPAN(2022年7月20日、午後6時11分)、https://twitter.com/MLIT_JAPAN/status/1549683330823880705

ちなみに、「批判」について、東京新聞は次のように報じています。

国交省によると、当初は女性1人を含む講師26人の予定だったが、女性の日程が合わず男性のみになったという。担当者は「まちづくり分野では女性の参画が少なく、講師を男女同数にするのは困難。ただ女性の視点は必要なので、女性による講義を複数回追加する」と説明している。

首都圏の政令市で、まちづくりを担当する女性職員(48)は「人中心のまちづくりを学ぶのに、女性の視点がないままスタートさせようとする国交省の考え方が疑問だ」と批判する。

東京工業大の治部れんげ准教授(男女平等政策)は「この企画を無自覚に発信してしまうこと自体が(男女格差を示す)ジェンダー・ギャップ指数116位の日本の遅れた現状を表している。講師陣のバランスが悪く、時代錯誤」と話す。行政の責任として「ロールモデルを見せ、率先して多様な声を示していく必要がある」と指摘。「国交省でも男女共同参画の取り組みは進めているはず。ジェンダー問題に詳しい人の意見が組織内で反映されたか検証し、次に生かして」と求めた。

出所:東京新聞Webサイト、「『講師25人全員が男性』で批判噴出 国交省の講座『日程の都合』釈明でさらに炎上 女性講師追加へ」(2022年7月21日)、https://www.tokyo-np.co.jp/article/191014、2022年7月29日閲覧 (太字は筆者)

女性職員の批判に、私が付け加えることは何もありません!

治部れんげ氏が「企画を無自覚に発信」と言っていますが、私は、企画内容を検討したメンバーが中年男性ばかりだった可能性がある、と思います。検討したメンバーが男性だけだったとしても、その内容をチェックするメンバーに、ジェンダー問題に関心のある人がいなかった可能性もあります。

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さて、改めて、「報道発表資料」より、オンラインスクールを開講する目的を確認します。

人中心の居心地が良く豊かなまちを実現していくため、「つくる」視点から「つかう」視点に重点をシフトし、官民連携の考え方や公共空間の活用事例を学ぶことにより、都市行政の専門性と都市生活者の視点をあわせ持つ「アーバニスト」としての素養を高め、当事者として主体的に考え実践していく公務員を育成するオンラインスクールを開講します。

出所:国土交通省、「令和4年度 都市を創生する公務員アーバニストスクールを開講します!」(2022年7月19日)、https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi05_hh_000387.html、2022年7月29日閲覧

(私も一文が長く、くどい文章を書く自覚はあるので、人のことをトヤカクいえないのですが、それはさて置いても、この説明は)一文が160字もあって、何を言っているのかよくわかりません。別紙「募集要項」に「目的」が記載されていたので、これを確認してみます。

これからの時代に魅力ある持続的な都市を創生していくため、既存ストックや人のつながり・コミュニティなどの地域に存する資本を最大限活かしながら、エリア価値の向上や人間中心の居心地が良く豊かなまちの形成に官民連携により取り組んでいくことが重要です。

本スクールでは、都市行政の専門性と都市生活者の視点をあわせ持つアーバニストとしての素養を高め、当事者として主体的に都市・地域経営や官民連携によるまちづくりに対峙していく公務員の育成を目指します。

出所:国土交通省、「令和4年度 『都市を創生する公務員アーバニストスクール』募集要領」、https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001491116.pdf、2022年7月29日閲覧

二文、218字でした。前半の文は目的ではなく背景であり、121字です。後半の文が目的で、97字でした。この文章を私なりに書き換えると、次のようになります。

実施の背景
魅力ある持続的な都市を創生するためには、官民連携により、地域に存する資本(既存ストックや人のつながり・コミュニティなど)を最大限活かして、エリア価値の向上に取り組み、人間中心の居心地が良く豊かなまちの形成に取り組むことが重要である。

オンラインスクールの目的
・都市行政の専門性と都市生活者の視点をあわせ持つアーバニストとしての素養を高めること
・当事者として主体的に都市・地域経営や官民連携によるまちづくりに対峙できるようになること

肝心の「アーバニストとは何か」について、「報道発表資料」にも「募集要項」にも明記されていません※1。ただ、「報道発表資料」と「募集要項」には、「都市行政の専門性と都市生活者の視点をあわせ持つ『アーバニスト』」と書かれているので、

「アーバニスト」=「都市行政の専門性と都市生活者の視点をあわせ持つ人」

なのかもしれません。

「カリキュラム(案)」には、次のような講義テーマや講義概要も記載されています。

  • 都市生活者目線の新しい物差しの提案
  • ワクワクする公共空間づくりの挑戦
  • 地域に眠っていた人材の発掘と新しいライフスタイルの創出
  • 市民プレイヤーの人的ネットワークの構築
  • 居心地が良く歩きたくなるまちなかづくりの実践

ここで取り上げたものは、現状では男性講師が担当することになっています。そのことに異を唱えるわけではありませんし、現在、これらの講義の担当になっている講師の技量などに不満があるわけでもありません。そういう意味ではなく、これらの内容については、男性のみならず女性の視点でも語ってほしいという気がします※2

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本稿では、「人中心のまちづくりを学ぶのに、女性の視点がないままスタートさせようとする国交省の考え方」が炎上した、という事象を取り上げました。講師が男性だけだった、ということから、講座の企画を考えるメンバー、それをチェックするメンバーが、全員男性だったという可能性がある、という、根拠なき雑な予想を思わず書いてしまいましたが、何かを世の中に発表するにあたって、幾つかのチェック段階がある場合、ジェンダーに限らず、多面的に各段階でチェックをする必要がある、ということは言えると思います。

先日、ジェンダーギャップについてコラムを書いたばかりです。本稿とあわせて読んでいただければ幸いです(タイトルには「市川市議会」とありますが、日本のジェンダーギャップへの言及、G7各国との比較なども含みます)。また、是非、本稿の注釈2も読んでいただきたいと思います。

* * * * *

〈注釈〉
※1:「カリキュラム(案)」には、講義テーマ「アーバニスト 魅力ある都市の創生者たち」(これは、講師の中島直人さんが著した2021年に筑摩書房より出版された書籍の名称と同一です)の概要欄に「アーバニストとは」「これからの時代に求められる都市専門家像」と記されています。中島さんの講義を受ければ「アーバニスト」とは何かが理解できるのでしょう。ただし、受講できるのは公務員に限られるため、公務員ではないけれど、「アーバニスト」とは何かを知りたいという人は、中島さんの著作『アーバニスト 魅力ある都市の創生者たち』を読めば良いと思います。
※2:と、書いた直後に、ハッとしたので書くのですが、「このテーマは女性っぽい」などという「女性らしさ」「男性らしさ」といった、無根拠な性別役割分担にも似たジェンダー・イメージの押し付け自体が、偏見に満ちた行為だと思います。しかし、私自身に今現在(2022年7月29日現在)、このような偏見があることをあえてここに残しておこうと思います。数か月、数年が経ってからこれを読んだとき、「これを書いた時は、こんな偏見を堂々と綴っていたのだな」と思えるでしょうか。はたまた…。「男性だけでなく女性にも語ってほしい」というのであれば、テーマを限定する必要はないですね例えば、本文で挙げたなかった、
・行政と民間事業者の信頼関係の構築に向けたチャレンジ
・デジタルとリアルを繋ぐ次世代の都市経営基盤としての地域
・これからを考える場づくり コミュニティディベロップメントの実践
は、「女性向きではない」、「男性向きである」と考えていたのではないのか?と、本稿を書いた自分に問い詰めたい
です。