2023年12月16日に、特定非営利活動法人市川市にJリーグクラブをつくる会が主催したイヴェントの第2部に参加しました。
「市川市民をワクワクさせたい!~市川SCとブルーサンダースの挑戦~」と銘打たれたこのイヴェントの第2部は、市川サッカークラブ(市川SC)のゼネラルマネージャーを務める幸野健一さん、アメリカンフットボールのブルーサンダースのゼネラルマネージャーである富田基樹さんによる、トークセッションでした(MCは志鎌真奈美さん。コンサドーレ札幌がお好き)。
トークセッションで飛び出した発言から、印象に残ったものを紹介します(と言っても、筆者が意訳しており、幸野さん、富田さん、志鎌さんの言葉そのままではありません)。
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志鎌さん
- お二人への質問。市川市の印象は?
幸野さん
- 9年前に北市川にサッカーのグラウンドを造った
- 昔、子どもと「ありのみコース」に来た時に田舎だと感じたが、その近くじゃないか!
- 柏井町ということもあり、「東京から一番近い田舎」という印象
- 東京などから来る選手やスタッフもそのような印象を持っている
富田さん
- 市川市には、何でもあるけれど、ひとつ特化したものがない印象
志鎌さん
- 隣の浦安市には東京ディズニーランドがある
- 同じく隣の船橋市は「ふなっしー」で知られている。
- 市川市はその両市に挟まれた市で、全国的な知名度がない=ブランド力が低いのではないか
- スポーツを通してブランド力の向上を図るには、どうすればよいか?
幸野さん
- 自分たちにできることは、クラブのカテゴリーを上げていき、プレゼンスを高めること
- ただし、Jリーグ入りが全てではない
- 例えば、Jリーグよりも下のカテゴリーの関東リーグで戦っていても、その町でプレゼンスを高めていければよい
富田さん
- 自治体が発信する情報が届かない市民がいる
- チームからそのような市民に情報を届けることができる
- 市の観光の魅力をアピールする際に選手やチアリーダーが発信することもできる
幸野さん
- スポーツの本来に意味は「遊び」
- 日本では「体育」であり「部活」であり「教育」になっている
- 甲子園大会が108年前に始まりトーナメント至上主義が広まり、勝利至上主義も根付いた
富田さん
- 「フラッグフットボール」が2028年のロサンゼルス・オリンピックの公式種目になった
- 鬼ごっこ的なこのスポーツが子どもに普及すればアメフトの認知も向上する
- 「フラッグフットボール」は30%以上の小学校が体育の授業でやっている
- 市川市の小学校でも「フラッグフットボール」を取り入れてくれたらブルーサンダースの選手が関わる機会が生まれる
幸野さん
- 日本では子どものスポーツクラブでもレギュラー以外は試合に出られないことが多い
- それは楽しむというスポーツの本質とズレている
- 自分が関わっている「プレミアリーグU11」はリーグ戦で全員出場できる
- 出生数が急激に減少しており、子どもを対象とするスポーツの市場規模はぐっと小さくなる
- これに危機感を持っている
志鎌さん
- 市川SCとブルーサンダースはいずれもアマチュアチーム
- アマチュアチームの選手は、別に本業の仕事を持っている
- アマチュアチームが移籍で選手を獲得する時は、市川市でその選手の仕事も確保しなくてはならない
幸野さん
- アマチュア選手の場合、試合に出られないチームに所属しているとモチベーションが下がる
- カテゴリーを下げてでも出場できるチームに移籍する
志鎌さん
- 市内にスタジアムができて試合が開催されれば、「フットボールツーリズム」※1の効果が期待できる
- スタジアム周辺の飲食店の利用が増えることなどで地域経済活性化も
- 雇用の促進にもつながる
幸野さん
- FC東京のサポーターはすごい
- アウェイのゲームに遠征して観戦したら、その地でおいしいものをたくさん食べて地域経済にも貢献
富田さん
- アメフトの試合があるからとスタジアムに来る人のほか、キッチンカーが集まるからという理由で来場する人もいる
- そのような理由で来訪した人が選手と触れ合うようになれば良い
- 毎週末に色々なイヴェントを行うのが理想
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他にも印象的な発言はいくつもありましたが、本稿で紹介するのはこのあたりに留めます。
あ、そうそう、幸野さんがおっしゃっていました。イングランドのリヴァプール市の人口は市川市と同じくらいなのだそうです。ビートルズを輩出した都市ですが、世界的なサッカークラブ、リヴァプールFCのホームタウンとして知ってるという人も多いはずです。多くの人が、市川SCやブルーサンダースのホームタウンとして市川市を認知している――そんな未来が来るかもしれません。
今回のイヴェントをきっかけに、スポーツを通じたまちづくりの具体的なイメージが浮かんだ人は少なくないと思います。
スタジアムがあって、練習場もあって、選手やスタッフが市民に愛され親しまれ、人気のマスコットキャラクターがいて、スタジアム名物フード(市川市だったら梨を使ったカレーなどがよさそうです)があって…ワクワクしますね!
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幸野さんの話の中で、スポーツの本質は遊びである、しかし、日本ではスポーツの楽しさよりも、それは勝つためにやるもので、キツくてつらくて、一部の人しか出場できないなど、楽しさから人を遠ざける建付けになっているのではないか、との問題提起がありました。
それに関して、以前にコラムの中で言及したことがあります。
この記事に書いた「スポーツ」の定義にまつわる個所を引用します。
ところで、スポーツとはそもそも何なのか?という話ですが、「スポーツとは何か」とWeb検索すれば、大体こんな感じのことが書かれた記事に行き当たると思います。
- 英語「Sport」(スポーツ)は、19~20世紀にかけて世界で一般化した言葉
- 「Sports」の由来はラテン語「deportare」(デポルターレ)だとされている
- 「deportare」は「運び去る、運搬する」を意味し、転じて、精神的な次元の移動・転換となった
- さらに、「義務からの気分転換、元気の回復」、「仕事や家事のような日々の生活から離れる」、「気晴らしや遊び、楽しみ、休養」を指すようになった
- というわけで、「気晴らしや遊び」などが、スポーツの本質といえる
スポーツ庁のWebサイトには、スポーツは、〈人生を楽しく、健康的で生き生きとしたものにするために、〉楽しめばよいのだ、と書かれています。また、〈誰もが自由に身体を動かし、自由に観戦し、楽しめるものであるべきなのです。〉とも。
出所:スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE(デポルターレ)「スポーツ庁が考える『スポーツ』とは?Deportareの意味すること」(2018年3月15日)https://sports.go.jp/special/policy/meaning-of-sport-and-deportare.html、2023年9月28日閲覧スポーツというものは、そもそもが「気晴らし」であり「遊び」なのだ、「楽しいもの」なのだ、ということですね。
しかし、学校の「体育」の授業は、自由に身体を動かして楽しむものというよりは、教師のホイッスルにあわせて統制の取れた動きをすることや、体育座りと呼ばれる身体が痛む座り方を強いられるなど、本来は楽しい「スポーツ」から「楽しさ」成分がどんどん削がれていくような減らすようなものでした。「運動会」や「体育祭」では軍隊の行進を思わせる、入場行進を何度も練習させられました。嗚呼ッ!最悪な思い出が蘇ってきました。
出所:特定非営利活動法人フリースタイル市川公式Webサイト「【コラム】『スポーツの日』には慣れましたか?」(2023年9月29日)https://fs-ichikawa.org/sports_day-2/、2023年12月17日閲覧
サッカーの大会で、こんなことがたまにあります。「予選リーグの最終戦で勝ってしまうと、予選を突破した後の決勝トーナメントで対戦する相手が強豪チームになってしまうので、わざと引き分けねらいで勝利を目指さない試合運びをする」ということが。えなりかずきさんのように「しかたがないじゃないか」と言い、このような試合運びをしたチームの肩を持つ、つまり、擁護する人もいます。が、こういう試合運びのゲームは楽しいでしょうか。勝利至上主義の行きつく先として、こういう大人の試合運び(?)が許容されるのかもしれません。
「我慢の野球」といった表現があります。
私たち市民は、日常生活の中で、したくもない我慢をして生きているものです。せめて、スポーツを観戦、観賞する時は、そうした世知辛い日常から解き放たれたいと思います。
「逆らわないバッティング」なる表現もあります。
「逆方向に打つこと」(右打者であれば右方向、左打者であれば左方向)、つまり、「流し打ち」を指すと思われますが、「引っ張る」ことを「逆らったバッティング」とは言いません。
一体、打者は何に逆らっているのか、あるいは、逆らっていないのか?投手が投じる威力のあるボールに対して、逆らって引っ張るのではなく(力に対して力で迎え撃つのではなく)、力を受け流すようにしてキレイに打ち返す、「逆らわないバッティング」。この表現が用いられる場合、打者は称えられます。失敗する(アウトになる)リスクが低いプレイを願う指揮官およびチーム、組織の方針があり、それに「逆らわない」ということでもあると私は思います。
観戦するファンは日々の仕事で上司という指揮官の指示を愚直に守り、逆らうことなく我慢して生きています。そんなファンは、監督の指示をしっかり守って、成功確率が高い=失敗確率の低い、派手さはないが確実に勝利を引き寄せる、「逆らわない」選手を見たいと思うのか、そういう選手が大半の中、指揮官の思惑とは異なる(野球においてこの言葉は使われませんが、あえて)大技を繰り出す、破天荒なプレイをする、いわば「逆らう」選手を見たいのか。逆らう選手ばかりではチーム運営はできないと思いますが(エモヤンばかりだと困る?)、逆らわない選手だけをそろえ、指揮官の統率力、管理力が高く評価され、監督やコーチの名がビジネスパーソンの理想の上司のランキング上位に並ぶ、あるいはビジネス書(スポーツビジネスの本ではない)を指揮官が書く…
※この話、続きは居酒屋でしましょうね!
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走らないサッカー(フットボール)、「ウォーキング・フットボール」という競技があることをご存じですか?、市川市には、このスポーツを楽しんでいるグループがありますよ。
PPK Walking Football
https://jerry-w.com/walkingsoccer/
※PPK=ピンピンコロリ
PPK Walking Football の公式Webサイトには、「ウォーキング・フットボール」は、こんな人におすすめと書かれています。
- 気軽にスポーツしたい
- 1人だと続かない
- チャレンジしたい
- 老後の趣味を探している
- サッカーやフットサルをやっているけど年齢的にキツくなってきたりケガしがち
- 新しい仲間を増やしたい
- 地域の活性化に興味のある
PPK Walking Footballは、「千葉県市川市にて、元気な中高年を増やす活動」をしています(情報出所:公式Webサイト)。このスポーツは、走ることは反則で、対人接触がないので、サッカー未経験者やサッカー初心者でもプレイしやすいそうです。
また、市川市は、「フットベースボール」の発祥の地という説もあります。
今回のイヴェントでは、「サッカー」の市川SC、「アメリカンフットボール」のブルーサンダースという、市川市を拠点に活動するフットボール2競技のクラブチームの代表によるトークセッションが行われたわけですが、「ウォーキングフットボール」や「フットベース」とも連携して、また、鬼ごっこのようなスポーツ、「フラッグフットボール」をプレイする人たちも一緒になって、「フットボール界」から、市川市におけるスポーツを通じたまちづくりを盛り上げていけるのではないか、と、ポジティヴな気持ちになりました。
イヴェント主催者の市川市にJリーグクラブをつくる会さん、そして、幸野健一さんと富田基樹さん、充実と濃密な一時(ひととき。と同時に、1時間の意味もあります。∵イヴェントは2時間でしたが、私が参加したのは後半の第2部、1時間だったため)を、ありがとうございました。
両ティームのさらなる飛躍を強く願っています!
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〈注釈〉
※1:〈フットボールツーリズムとは、サポーターがアウェイゲームの応援に相手クラブのスタジアムを訪れること。数百から数千単位での人の移動が生まれ、現地での消費も期待できることから、クラブを持つ都市は自治体とも連携しながら、サッカーを求心力とした観光客誘致として力を入れている〉
出所:トラベルボイス、「世界が注目するJリーグの『アウェイ・ツーリズム』、独自の進化を遂げた誘客手法や地域観光への可能性を聞いた」(2017年12月16日)https://www.travelvoice.jp/20171216-99076、2023年12月17日閲覧
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執筆日 2023年12月17日
公開日 2023年12月18日