【アトリエ029】街の記憶を呼び起こす

活動紹介

フリースタイル市川は、かつて国府台共栄会で営業していた「肉のこばやし(小林精肉店)」の建物を、ギャラリー併設のシェアハウス「アトリエ029」として再生リノベーションするプロジェクト(管理・運営:有限会社京葉不動産管理さん)の企画を担当しました。

「アトリエ029」では、2022年4月16日には内覧会を、同年4月16~30日には市川市内の女性アーティスト(宗宮瞳さん&くずはらまりさん)による二人展を開催し、5月以降も展覧会やワークショップ、空き家活用セミナーなどを開催しています。今後、入居者やギャラリー利用者の募集をしつつ、引き続き地域が盛り上がるようなイヴェントが行われる予定です。

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さて…、時間を少し遡って、2か月前にタイムトラベル※1しましょう。2022年4月7日の夜。オープン直前の「アトリエ029」で、あるワークショップが開催されました。冒頭の写真は、その時の様子です。

国府台の地に新たに誕生することになる「アトリエ029」をお披露目するため、近隣にお住いの方々にお越しいただき、この建物がお肉屋さんだった時代を知る皆さんに、かつての面影を残しながら、新しく生まれ変わった姿を見ていただきました。

「あのお肉屋さんが、こんなにオシャレな空間になるなんて驚いた」

「キレイになっているけれど、お肉屋さんで使われていたモノがたくさん残っていて面白い。色々思い出すね」

このような感想をいただきました。

ワークショップでは、皆さんに「肉のこばやし」の記憶やエピソードを語り合ってもらいながら、当時、周辺にどのようなお店にあったかを思い出してもらい、壁に貼った地図上に書き込んでいく、という作業をしました。

「そこは●●屋さんがあったよ」と、かつて営業していた店舗の場所を指し示す参加者。(撮影日:2022年4月7日 撮影者:くずはらまり 場所:アトリエ029)
赤ペンで地図を指すのは、「アトリエ029」のオーナーであり、運営・管理を担う有限会社京葉不動産管理の宮田さん。その背後には、「アトリエ029」の設計を担当した建築家の野口さん(フリースタイル市川の代表理事)。(撮影日:2022年4月7日 撮影者:くずはらまり 場所:アトリエ029)

ワークショップの参加者さんは、かつての国府台共栄会を思い出して地図をつくりながら、

「全盛期には150を超える店舗があった」

「1995年~1996年頃に銀行がなくなり、それ以降、商店会に元気がなくなっていった」

といった、商店街の盛衰について、お話されていました。

「アトリエ029」は、元気のない商店街に全く新しい建物をつくる試みではなく、その土地に根差して営まれていた商売や生活の記憶を大切にし、新たな息吹を吹き込んで蘇らせる試みでもあります。

その土地の記憶を呼び起こし、地図のかたちにするというワークショップの数日後の4月16日に、「アトリエ029」は正式にオープンしました。ワークショップを経たことで、過去(歴史)を踏まえて国府台から新たな文化を発信できると思います。

このワークショップで皆さんの記憶を頼りに往年の商店街の店舗などを書き出した地図は、清書(?)して、「アトリエ029」で展示するなど、何らかの活用をしたいとも思います。

「小林精肉店」(のちの「肉のこばやし」)が戦後にリニューアルした際の写真を見ながら語り合う参加者の様子。(撮影日:2022年4月7日 撮影者:くずはらまり 場所:アトリエ029)
呼び戻した記憶をもとに、かつての店舗などを書き込んだ地図と、国府台共栄会の盛衰について語り合う参加者。(撮影日:2022年4月7日 撮影者:くずはらまり 場所:アトリエ029)

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「アトリエ029」のTwitterで、ワークショップを実施したことを投稿したところ、Gyo-Log(行徳町歩きログ)さんから、

  • まちづくり的な文脈で考えたとき、行徳においても記憶を掘り起こす作業が必要
  • 街の共通記憶やアイデンティティを再確認することが必要

との応答がありました。

※参考:【ローカルメディア漫遊記】『Gyo-Log』で行徳ウォーキング

また、2022年4月16日に「アトリエ029」の内覧会兼パーティにご参加いただいた和洋女子大学の小澤京子先生より、「日常記憶地図」というものを教えていただきました。ワークショップで実施した、記憶を頼りに地図に往年の店などを書き込んでいくという行為は、「日常記憶地図」とは異なりますが(と言うか、ワークショップ実施時は「日常記憶地図」のことを知りまでんでした)、類似点はあると思います。

「日常記憶地図」とは、次のようなものです。

個人のある時期の日常を地図にプロットすることで、普段意識することのない場所の記憶や風景を立ち上げるメソッドです。

親や祖父母、パートナーの記憶や風景を”共有”することや、同じエリアで重ね合わせることで、土地の特性や時間の流れを見出すこともできます。

出所:日常記憶地図Webサイト https://my-lifemap.net/

個々人の記憶を記録アーカイヴに残し、共有することで、その土地の歴史を風化させないことにつながりますね。

フリースタイル市川は、5月末に閉店した「ときわ書房本八幡店」さんの42年間の歴史を語り継いでいきたい、素晴らしいお店が存在した事実をいつでも誰でも見られる状態にしておきたい、と考え、『#ときわ書房本八幡店ありがとう プロジェクト』を立ち上げました。このお店がどれほど愛されたお店だったか、いかに代え難い特別な場所だったかは、下の記事を閲覧すればご理解いただけると思います。

移り変わる街の風景を、写真などに記録して留めることに加え、個人の記憶、体験を、その人の言葉で表現してもらい、蓄積し、公開することは、うまく言えませんが、とても重要な行為のように思います。

フリースタイル市川は、まちづくり(に関わる事)をするために組成されたチームです。新しく何かをつくりだすことはもちろんですが、街の歴史、記憶、想い出も大事にしていきたいと思います。それを共有することでコミュニケーションがうまれ、今後、この地域でどのようなことをしていきたいかを考える契機にもなるはずです。

「町の記憶を呼び戻す」ことに関心のある方は、お気軽にご連絡ください。一緒に何か面白いことができればうれしく思います。

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〈注釈〉

※1:「タイムトラベル」という語から、「タイムトラベルは楽し」という歌詞で知られる大貫妙子さんの「メトロポリタン美術館(メトロポリタンミュージアム)」を想起する人も多いことでしょう。Wikipediaによると、〈NHKの『みんなのうた』で1984年4月-5月に放送された。(中略) 本曲は『みんなのうた』の放送楽曲の中でもとりわけ人気があり、初回放送から8か月後の1984年12月-1985年1月の再放送を皮切りに定期的に再放送されている〉とのことです。