【コラム】世界、日本、市川 ~入管法改正案をめぐる出来事は他人事ではありません~

コラム

最近、入管法改正案(正式には「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」)を採決することに反対する人たちが、国会前などでデモを行っていることをご存知でしょうか。

この記事を読む人の多くは、市川市にお住まいであるか、市川市で働いていたり学んでいたりするのだと想像します。「市川市内でデモが行われているわけではないから、私たちには関係ない話」ということにはなりません。

市川市には100を超える国の人々が住んでいます。多文化共生社会そのもので、市は自らを「国際都市」と称してもいます。私は「市川市は小さな地球」と呼んでいます。

そんな市川市には、危険から逃れるため、母国から日本にやってきている人たちがいます。そのことについては、こちらのコラムに記したので、是非読んでみてください。

入管法改正案の何が問題なのか

入管法改正案では、3回目の難民申請以降は、難民認定すべき相当の理由がなければ強制送還できるようになります。2回目までの審査で、母国における迫害のおそれの有無を確認し、難民として保護すべき人を保護する体制が整備されていることを前提する、このルール変更の案ですが、現在の難民審査には問題があると言わざるを得ず、収容施設の医療体制にも問題があります。

■難民審査参与員への割り振り偏重
入管庁に、難民ではないと認定された外国人が不服申し立てをした時は、法務省が委託した「難民審査参与員」が2次審査を行います。
参与員は111人いますが、柳瀬房子参与員が受け持った審査件数が驚くべき多さなのでです(2021年が件数全体の約20%の1,378件、2022年が25%の1,231件)。
国難民弁護団連絡会議の調べによると、参与員を務める10名の弁護士の年平均審査件数は36件なので、柳瀬房子参与員の処理件数が異次元の多さであることがわかります。

問題視されているのは1人の参与員に件数が偏っていることですが、これに加え、柳瀬房子参与員の「難民を認定したいが、ほとんど見つけることができない」という発言を、入管庁が申請回数を制限することが必要な理由として引用している点にもあります。平均からかけ離れた件数を処理している参与員の発言に改正の根拠を求めているわけです。1次審査結果を覆さない柳瀬房子参与員に、入管庁が重点的に審査を割り振っているという批判もあります。

■収容施設内の医療体制不備
2021年に名古屋入管で医療を十分に受けられずに亡くなったことが問題視され、医療体制が強化されました。その一環で、大阪入管で働いていた常勤の医師がいるのですが、この医師が2023年1月に、酒に酔ったまま診察していました。この事実を斎藤健法務大臣は2月には把握していたものの、公表しておらず、5月末にやっと判明したことから、組織による隠蔽が指摘されています。

「■難民審査参与員への割り振り偏重」と「■収容施設内の医療体制不備」の情報出所:東京新聞Web「審査役111人いるのに1人に集中、全体の25%を担当 難民審査で入管庁公表 柳瀬房子参与員が昨年1231件」(2023年5月25日)https://www.tokyo-np.co.jp/article/252412、東京新聞Web「疑念だらけなのに議論打ち切り 入管難民法改正案の残された問題とは 『外国人の命が危機』の声上がる」(2023年6月9日)https://www.tokyo-np.co.jp/article/255562

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入管法改正案は国連から見直しを求められています

国連人権理事会の特別報告者らは日本政府に対して、入管法改正案が、国際人権基準を満たさないとして、見直すように求める共同書簡を送っています。

日本の入管難民法改正案に対して、特別報告者が共同書簡を送るのは、前回、2021年の改正法案が1回目で、今回が2回目です。前回の改正法案は、入館施設内でウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった問題による影響で廃案になりましたが、政府は、改めて改正法案を提出していました。これに対して2回目の書簡が送られたわけです。内容を見直すように、と。

書簡では、在留資格のない人々は、原則収容主義が維持されているため、収容は例外で、自由が原則である、という「自由権規約」に反する可能性が指摘されています。収納期限に上限が設けられていないこと、子どもの収容も可能なこと、収容に際して裁判所による審査などがなされていないことなども問題だと指摘されています。3回以上申請した人を強制送還できるというルールについては、難民保護の基本「ノン・ルフールマン原則」を損なうものだと批判しています。

情報出所:東京新聞Web「国連特別報告者の指摘をまた無視するの? 『入管難民法改正案は国際人権基準を満たさず』に日本政府が反発」(2023年4月25日)https://www.tokyo-np.co.jp/article/246026、2023年6月9日閲覧

ノン・ルーフマン原則という言葉が出てきました。これについて、UNHCRのWebサイトの説明を引用します。

ルフールマンに対する保護
もっとも重要なのは、難民は彼らが迫害の危険に直面する国への送還に対する保護を享受することです。これはノン・ルフールマン(non-refoulement)原則として知られています。これは難民保護の礎石と言われ、明示的に難民条約第 33 条(1)に規定されています。

正式な難民認定は、ルフールマン(送還)に対して保護されるための前提条件ではありません。庇護希望者は難民であるかもしれませんので、彼らは地位の判断がなされる前に送還・追放されてはならないということは、確立された国際難民法の原則となっているのです。ノン・ルフールマン原則は、国際慣習法の規範へと発展してきました。そのため、これは、難民条約・議定書の締約国でない国さえも拘束します。また、国際的・地域的な人権法は、各国がその他の基本的人権が侵害される重大な危険性のある国へ個人を送還することを抑止しています。

出所:UNHCR日本、「難民の権利と義務」、https://www.unhcr.org/jp/right_and_duty、2023年6月9日閲覧

ノン・ルフールマン原則は、「難民条約」(1951年に外交会議で採択された「難民の地位に関する条約」と、1967年に採択された「難民の地位に関する議定書」をあわせたもので、ここでは前者)の33条に規定されています。

第33条【追放及び送還の禁止】
1 締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。

出所:UNHCR日本、「難民の地位に関する1951年の条約」、https://www.unhcr.org/jp/treaty_1951、2023年6月9日閲覧

日本は「難民条約」に加入しているので、ノン・ルフールマン原則に則った対応が求められます。いや、〈これは、難民条約・議定書の締約国でない国さえも拘束します〉とUNHCR日本の「難民の権利と義務」というWebページに書かれているので、条約に入っているとかいないという問題以前の話、絶対に守るべき原則なのですね、この、ノン・ルフールマン原則というものは。

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入管に関するよくある質問(Dialogue for People)

安田菜津紀さんが、素朴な疑問に答えるかたちで、入管について解説しているので、質問の一覧を紹介します。

よくある質問

  • 入管施設での「収容」とは何ですか?
  • 「収容」が本来の建前とは違った形で用いられている?
  • こうした状況が国際社会から批判を浴びている?
  • 他国ではどうなっているのでしょうか?
  • 「送還が機能不全に陥っている」は本当?
  • 「犯罪者」だから追い出されてしまうの?
  • 日本では労働目的など、本来の目的とは違った難民申請がほとんど?
  • ウクライナから逃れてきた人をはじめ、戦争からの避難者は「難民」として守れない?
  • 2021年の入管法政府案では、どんなことが変えられようとしていたのでしょうか?

回答は、Dialogue for People のWebサイトでご確認ください。

Dialogue for People
入管法はどう変えられようとしているのか?その問題点は?(2023年1月19日)
https://d4p.world/news/19702/

6月20日は「世界難民の日」です

私自身、難民のこと、入管のこと、これらを巡る様々な出来事について、全然詳しくありませんが、報道に触れるにつれ、興味を持ち、先日は第3回「難民・移民フェス」に赴きました。

6月20日は、国連が定めた 「世界難民の日」(World Refugee Day)です。その少し前のタイミングで、この記事を書きました。難民に興味はないという人が、これを読んで、少しでも興味を持ってくれたら幸いです。

日々、高速で流れゆく雑多で大量の情報に飲み込まれそうにもなりますが、大事な情報はしっかり掴んで、問題を認識して、考え、未熟でも、引用ばかりであっても、言葉にして発していくことを心がけます。今後も。

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執筆日 2023年6月9日
公開日 2023年6月14日