【コラム】もしデジタル地域通貨「いちコイン(仮)」が導入されたなら

コラム

2022年3月27日投開票の市川市長選挙で初当選した、田中甲市長。田中市長が、どのような政策に注力していくのか、興味深く見守っています。

2022年6月10日の市川市議会にて、田中市長が所信表明演説を行いました。これは、市政運営についての思いを市民に向けて表明するものです。少し前に、この所信表明の内容を要約した記事を公開しているので、興味のある方はチェックしてみてください。

この所信表明の中で言及されている事項のうち、多くの方にとって聞き慣れないのではないかと思われる語が「デジタル地域通貨」です。

所信表明では、これを、「市民の元気な活動への支援と地域経済の活性化を両立させる新たな試み」だと述べています。

市内の経済を活性化する方法の 1 つとして、市内のお金の循環を図ることが挙げられます。そこで、市民の元気な活動への支援と地域経済の活性化を両立させる新たな試みとして、誰もが利用しやすいデジタル地域通貨の仕組みや運用などについて、政策参与を設置して研究を進めてまいります。

出所:市川市公式Webサイト「所信表明 令和4年6月 市川市長 田中甲」、https://www.city.ichikawa.lg.jp/common/new02/file/0000404934.pdf (太字は筆者)

田中市長は、市長選挙前に行われた、立候補者の討論会の場でも、「経済活性化のため、デジタル地域通貨を導入する。つまり、お金の地産地消だ」という趣旨の発言をしていました。

本稿では、「デジタル地域通貨」なるものが一体何なのかを解きほぐしていきます。

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このブロックでは、NECソリューションイノベータWebサイトのコラム、「デジタル地域通貨は地域活性化の切り札になるか」(2022年4月8日)などを参考に、「デジタル地域通貨」に関する基本事項を確認します。

「地域通貨」とは

「デジタル地域通貨」の説明をする前に、そもそも「地域通貨」とは何かを確認しておきます。「地域通貨」とは、特定の地域やコミュニティ内だけで流通、利用できる通貨のことです。ちなみに、通貨と呼んでいますが、日本円や米ドルなどの法定通貨ではなく、厳密にいえば通貨ではありません。

利用可能な範囲は、空間的には特定の地域内、時間的にも有効期間が設定されるなど、限定されることが多いです。

地域通貨を導入することで期待できる効果には、地域経済や地域コミュニティの活性化があります。「今ここでしか買えない」という購買心理を刺激することで、地域内での経済循環を促す効果があると考えられます。無利子で資産価値をなくすことで、貯蓄に回すことなく、流通させるようにしています。

情報出所:NECソリューションイノベータWebサイト、「デジタル地域通貨は地域活性化の切り札になるか」(2022年4月8日)、
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20220408_local-currency.html

「地域通貨」の歴史を手短に振り返る

日本では、1999年発行の地域振興券が着想のきっかけとなり、2000年代前半にブームになりました。全国で発行された地域通貨の数は延べ650(2019年12月時点)、稼働しているのは180程度(2020年12月時点)と言われています。

代表的な成功事例には、高田馬場・早稲田(東京都)で2004年に発行された「アトム通貨」があります。ただし、多くの地域通貨は、維持管理コストや利用者数の伸び悩み、偽造の問題などから、廃止や休眠状態になるものがほとんどです。

ブームから約20年が経った現在、デジタル技術(特にブロックチェーン技術)の活用により、従来の課題を克服した「デジタル地域通貨」が注目されています。

情報出所:NECソリューションイノベータWebサイト、「デジタル地域通貨は地域活性化の切り札になるか」(2022年4月8日)、
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20220408_local-currency.html

「デジタル地域通貨」の特徴と導入効果

紙の地域通貨と比べ、印刷コストや運用面での労力を大幅に削減できます。加盟店が導入に必要なことは、QRコードを店頭に掲示するだけでよく、非常に簡単です。改竄や不正利用に強いブロックチェーン技術により、偽造リスクを大幅に低減できます。

想定される主な効果として、①地域内経済が活性化し、循環すること、②地域コミュニティのベースになり得ること、③経済活動が可視化されデータ活用が可能になることーーが挙げられます。

情報出所:NECソリューションイノベータWebサイト、「デジタル地域通貨は地域活性化の切り札になるか」(2022年4月8日)、
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20220408_local-currency.html

「デジタル地域通貨」の事例~木更津市のアクアコイン~

「アクアコイン」は、千葉県木更津市と君津信用組合、木更津商工会議所が連携して、2018年10月にスタートした「デジタル地域通貨」です。

アクアコインは、千葉県木更津市と君津信用組合、木更津商工会議所が連携して導入したデジタル地域通貨です。

君津信用組合の窓口やセブン銀行ATM、プリペイドカード、チャージ機などでチャージでき(1コイン=1円)、QRコード読み取りで決済します。加盟店は、2022年3月時点で700店以上に上ります。

木更津市は、指定のボランティア活動などの参加者に対して、「らづポイント」というポイントを「アクアコイン」で配布しているほか、住民の健康促進のため、歩いた歩数に応じて、「アクアコイン」でポイントを付与しています。また、公共料金等の支払いにも利用することができます。

出所:アクアコインWebサイト、https://www.kisarazu-aquacoin.com/

この「アクアコイン」ですが、3日前の2022年7月1日から、木更津市内の市民活動団体等への寄附受付を開始しました。詳細は、PR TIMESの記事、株式会社アイリッジ「『消費』に加え『寄附』で地域活性化 電子地域通貨アクアコイン『きさらづみらい応援プロジェクト』を開始」(2022年6月30日)をご覧ください。

市川市で「いちコイン」が導入されたら…

市川市で、デジタル地域通貨「いちコイン(仮)」が導入された暁には、きっとこのような体験が生まれるでしょう。

昨年9月に市川市に移住したばかりで、周りに知り合いもいませんでしたが、『いちコイン』を利用したことで、多くの素敵な市川パースンと出会い、会話が生まれました。

市川市に引っ越してくる前に住んでいたまちでは、常連になりたいと思うお店があっても、10回くらいお店に通ってやっと「何してる方なんですか?」と話しかけられる感じでしたが、『いちコイン』だと2回目でそこまでいける感触があります。

出所:筆者作成※1

カヤック柳澤大輔氏の考える「地域資本主義」

2019年にコミュニティ通貨(地域通貨)サービス「まちのコイン」を立ち上げた面白法人カヤックの社長・柳澤大輔やなさわ だいすけ氏は、「法定通貨の課題」として、ブログに次のように書いています。

もともとは交換手段に過ぎなかったものが、お金がお金を生むようになると、手段が目的化していく。たくさんの金融商品が生まれます。お金持ちはさらにお金持ちになっていく。そんな仕組みができるようになったのです。

資本主義は経済的な豊かさや技術革新をもたらしましたが、同時に労働者からの搾取や経済格差をもたらしました。カール・マルクスが『資本論』で指摘している通りです。

出所:面白法人カヤック社長日記 No.90「なぜ僕は地域通貨が盛り上がると確信しているのか。お金の歴史から解説してみます。」(2021年8月5日)、https://www.kayac.com/news/2021/08/yanasawa_blog_vol90 (太字は筆者)

柳澤氏は、お金がお金を生むサイクルが暴走している「行き過ぎた資本主義」をアップデートするために、「地域資本主義」に取り組みたいと述べます。

僕の提唱している地域資本主義は、まちごとの地域資本を増やすことで、地域の多様性に繋げたいというものです。地域ごとに経済圏が生まれ、そこで独自の地域通貨があったなら、たとえば海をきれいにすることに振り切ったお金があるかもしれませんし、カヤックは秋葉原にオフィスがありますが、サブカルやオタクを極めるほどもらいやすい地域通貨なんていうのもあり得るかもしれません。つまり、地域ごとのモノサシ(=お金)を持つことで、多元化する価値を測ることができるようになる。

出所:面白法人カヤック社長日記 No.90「なぜ僕は地域通貨が盛り上がると確信しているのか。お金の歴史から解説してみます。」(2021年8月5日)、https://www.kayac.com/news/2021/08/yanasawa_blog_vol90 (太字は筆者)

カヤックのコミュニティ通貨(地域通貨)サービス「まちのコイン」が目指すチャンレンジとして、以下のことを挙げています(出所:面白法人カヤック社長日記 No.90「なぜ僕は地域通貨が盛り上がると確信しているのか。お金の歴史から解説してみます。」2021年8月5日)

  • 利子がなく、使わないと減価していく通貨
  • 地域固有の価値を定量化・最大化することで、地域間の格差をなくすための通貨
  • 従来のお金が取りこぼしてきた価値観を大切にし、人の尊厳を尊重する通貨
  • 人と人が仲良くなっちゃう通貨
  • 地域特有の課題に皆で一緒に取り組み、自分たちの住むまちを自分たち自身の手で素敵にしていく通貨
  • その結果、それぞれのまちが個性的になることにつながっていく通貨
  • これらの取組がビジネスとして持続可能、つまり収益化できる仕組みを持った通貨
  • 現在の法定通貨が取りこぼしてきた人の幸せを測るための新しい通貨
  • 使うことで、GDPに代わる人の幸せを図る指標を、まちごとに個別に見出せる通貨

また、柳澤氏が、内閣官房「デジタル田園都市国家構想実現会議(第6回)」(2022年4月4日、オンライン開催)で提出した資料には、「デジタル地域通貨」によって、「地域社会資本」(人と人のつながり)と「地域環境資本」(自然や文化)を計測し、増大するという考えが示されています。

出所:「デジタル田園都市国家構想実現会議(第6回)」資料9、面白法人カヤック 代表取締役CEO 柳澤 大輔 氏 資料「デジタル地域通貨の新しい可能性」(2022年4月4日)、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai6/siryou9.pdf

まとめ~デジタル地域通貨が定着するには~

従来型の地域通貨は、発行の手間、管理の手間が大きく、参加する店舗にも負担が大きいものでした。住民をはじめとする利用者からみれば、使える店舗数が増えずに、少ないままだと、積極的に地域通貨を使おうというモチベーションが湧かず、その結果、地域通貨が普及しない、というケースが多かったと思われます。

これに対し、「デジタル地域通貨」は、近年のデジタル技術の進展を受け、店舗側も導入しやすく、スマートフォンでの決済に慣れた利用者側にとっても、使うことへの心理的、技術的な障壁は低いと考えられます。

上述の「アクアコイン」では、地域で活動する団体に寄附することができますが、このように、デジタル地域通貨のアプリに寄附機能※2が付加されれば、単に「消費」「買い物」のために使うものから、支援したい地域活動団体への寄附を通じた、「まちづくりへの参画」もできるものになりえます。

市川市であれば、たとえば、市内で活動する手作り作家さんの作品が販売されたり、飲食店、フード・トラックなどが出店する「Have A Good Day Motoyawata」(通称ニューボロイチ)や、同じく市川市内の飲食店、フード・トラック、生花店が出店し、農家さんが新鮮な青果を販売する「いちかわごちそうマルシェ」などの定期開催イヴェントで、デジタル地域通貨「いちコイン(仮)」を使えるようにし、「いちコイン」で、「市川市内のお店」や、「市川市内のクリエイター(手作り作家さんなど)」に支払うと、通称「いちポイント」と呼ばれるポイントが付与される仕組みにすれば、地域経済活性化と交流促進につながります。

フリースタイル市川の交流イヴェント「いちカイギ」の参加費用を、「いちコイン(仮)」で支払っていただいた場合も、もちろん「いちポイント(仮)」が貯まります(※架空の話です)。

このように、地域内で使える場所が増えること、特に、地域に根差した店舗・個人・団体に対する支払いの場合にポイントが付与される仕組みにすることで、地域に「デジタル地域通貨」が普及、浸透、定着するのではないか、と考えます。相当、荒っぽい予想ですが…。

田中甲市長は、政策参与を設置して、デジタル地域通貨の仕組みや運用などについて研究すると、先月の所信表明演説で述べています。ぜひ、研究成果を公開していただくことはもちろん、市民の声をタウンミーティングで聞いてほしいとも思います(ミーティングに駆け付けたいです)。

市川市の経済活性化と交流促進に寄与するであろう「デジタル地域通貨」の導入に向けた検討を、今後、ウォッチしていく構えです。この件について、ご質問やご要望、ご批判などがあれば、どうぞお気軽にお寄せください。ご連絡はこちらからどうぞ。

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〈注釈〉

※0:記事タイトルの「もしデジタル地域通貨『いちコイン(仮)』が導入されたなら」は、村上春樹氏のエッセイ集『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』へのオマージュです。

村上春樹『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』

※1:もし、デジタル地域通貨「いちコイン」(仮)が導入されたなら、という想定で書いたこのセリフは、以下の短文をオマージュしたものです。
〈昨年9月に鎌倉に移住したばかりで、周りに知り合いもいませんでしたが、まちのコインを利用したことで、多くの素敵な鎌倉人と出会い、体験を通して会話が生まれました。鎌倉に引っ越してくる前に住んでいたまちでは、常連になりたいと思うお店があっても、10回くらいお店に通ってやっと「何してる方なんですか?」と話しかけられる感じでしたが、まちのコインだと2回めでそこまでいける感触があります〉
(出所:デジタル田園都市国家構想実現会議(第6回)資料9、面白法人カヤック 代表取締役CEO 柳澤 大輔 氏 資料「デジタル地域通貨の新しい可能性」(2022年4月4日))

※2:デジタル地域通貨による寄付の効果について、実例をもとに、その可能性を語る次のような記事があります。〈昨年夏、台風で線路が流されて鉄道が不通になる被害が高山でありました。その義援金を、さるぼぼコイン※3とクラウドファンディングの両方で募ったところ、件数や額が多く集まったのは、さるぼぼコインのほうでした。クラウドファンディングで寄付しようとすると、カードの登録など幾つかの初期手続きが必要になります。一方、地域の方々はさるぼぼコインを使い慣れていて、通常の支払いと同じ感覚で寄付ができます。義援金用口座のQRコードを新聞に掲載したのですが、それを読み込んで金額を入力すれば、それで寄付完了です。さらに、さるぼぼコインを使っているのは何かしら高山に関係がある人です。全国から寄付を募るクラウドファンディングと比べて、ユーザーに刺さりやすかった面もあると思います〉出所:公益財団法人吉田秀雄記念事業財団Webサイト、アド・スタディーズVol.70 川田修平「電子地域通貨で実現するお金の地産地消」(2019年12月25日)、https://www.yhmf.jp/as/postnumber/vol_70_06.html(2022年7月4日閲覧)川田修平氏は、デジタル地域通貨プラットフォーム「MONEY EASY」を通して、お金の地産地消を目指している株式会社フィノバレーの代表取締役社長です。フィノバレーは「アクアコイン」も手掛けています。

※3:「さるぼぼコイン」は、岐阜県高山市・飛騨市・白川村で使える電子通貨アプリで、加盟店で支払いに使ったり、ユーザー間で送金することができます。なお、名前の由来となった「さるぼぼ」とは、〈飛騨高山など岐阜県飛騨地方で昔から作られる人形。飛騨弁では、赤ちゃんのことを「ぼぼ」と言い、「さるぼぼ」は「猿の赤ん坊」の意味。近年では、土産として飛騨地方の観光地で多く見られる。 このさるぼぼの源流を辿ると、奈良時代に遣唐使が唐から伝えた「這子」や「天児」と呼ばれる形代が原型であると言われている。〉(Wikipediaより)

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