【コラム】市川市議会における「宗教2世問題」を巡るやり取りと「児童虐待」の相談窓口

コラム

公開日 2023年3月26日

2022年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件を契機として、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡って注目された「宗教2世問題」ですが、先日の市川市議会でも取り上げられていました。

石原よしのり議員が「宗教2世問題」に対する市の取り組みなどについて質問していました(令和5年2月定例会の第7日、3月9日)。まず、石原議員は、市川市では現在のところ、「宗教2世問題」に悩んでいる人からの相談にどのように対応しているのかということを質問しました。植草総務部長の回答は以下の通りです。

  • 現在、市川市において、「宗教2世問題」に特化した相談窓口は設けていない
  • 仮に相談があったら、所管となる課、または複数の課が連携して適切に対応する

これを受け、石原議員は、過去に相談事例があるかを尋ねました。立場福祉部長による回答は、以下の通りです。

  • 福祉部内で確認したところ、「宗教2世問題」に関わる相談は、数年前に1件あることがわかった
  • この方は、経済的な悩みだけでなく複合的な悩みを抱えていた
  • 両親がある主教を熱心に信仰していた
  • この件については、様々な関係機関と連携を図って支援を継続し、問題の終結に至った

石原議員は、この回答を踏まえた上で、「宗教2世問題」で悩む人への対応は、福祉部、こども政策部、市民部、総務部、そして、学校などが連携して対応することが必要だと述べました。問題を理解し、相談への応じ方を修得することが要である、とも。

石原議員の話を聞き、かつて存在しなかったDV相談窓口が、今はあるように、宗教2世で虐待を受けている児童などを救うためにも、この問題の深刻さを皆が認識し、理解し、窓口を設けるなどの対応をしていくことが望ましいと思いました。

厚生労働省は12月27日、全国の自治体に対し、宗教の信仰等を背景とした児童虐待に対応するべき具体的な事例を列挙したQ&A集を通知した。既に10月に児童相談所に宗教関連でも除外しないよう通知していたが、「地獄に落ちる」などと脅して宗教活動を強制するのは心理的虐待に当たるなどの具体例を示した。より現場が実効性のある対応ができるよう「事細かに整理した」(同省担当者)形だ。

出所:弁護士ドットコム、「国が宗教虐待を定義、2世の万感『やっと光が見えてきた』『親子の絆を築きたい』」(2022年12月27日)、https://www.bengo4.com/c_18/n_15478/、2023年2月23日、太字は筆者

2022年の年末、厚生労働省は子ども家庭局長の名において、市川市を含む全国の自治体に、「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」と題した通知を出しました。

宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/content/221227_02.pdf
※Word文書をpdfにしたもの

宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A 概要
https://www.mhlw.go.jp/content/221227_01.pdf
※PowerPoint資料をpdfにしたもの

このQ&A集に掲載されている、宗教の信仰等に関連する児童虐待の事例を紹介します。

体的虐待

  • 宗教活動へ参加することを体罰により強制する
  • 宗教的行事に参加している中で、真面目に話を聞いていなかった等の理由で叩く、鞭で打つ
  • 長時間にわたり特定の動きや姿勢を強要する、深夜まで宗教活動等への参加を強制する

心理的虐待

  • 言葉や映像、資料により恐怖をあおる・脅す、無視する、嫌がらせする、児童本人の自由な意思決定を阻害する★1
  • 交友や結婚の制限のため脅迫や拒否的な態度を示す、友人等を「敵」「サタン」等と称する
  • 童話、アニメ、漫画、ゲーム等の娯楽を一切禁止する、宗教団体等が認めたもののみに限る
  • 他者の前で宗教を信仰している旨の宣言を強制する、特定の宗教を信仰していることが客観的に明らかとなる装飾品等を身につけることを強制する
  • 言葉等により恐怖をあおる等により宗教の布教活動等を強制する
  • 宗教の布教活動への参加を強制するために脅迫や拒否的な態度を示す、友人等を「サタン」等と称する
  • 合理的な理由なく、宗教等の教義を理由に高校への就学・進学を認めない
  • 大学への進学、就学に関し、言葉でおどす等により禁止すること
  • 児童のアルバイト代、高校・大学等への進学のための奨学金等を取り上げ、本人の意思に反し、明らかに児童の生活等につながらない目的に消費する
  • 適切な養育や教育機会の確保等を考慮せず、様々な学校行事等に参加することを制限する
  • 奉仕活動や宣教活動(修練会、セミナー、聖地巡礼等)への参加などにより、児童の養育を著しく怠る
  • 言葉による脅しや無視する等の拒否的な態度をとる等により進学や就職を制限

性的虐待

  • 教育と称し、年齢に見合わない性的な表現を含んだ資料を見せる・口頭で伝える
  • 宗教団体の職員等に対して、自身の性に関する経験等を話すように強制する

出所:厚生労働省「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A 概要」(2022年12月27日)

ちなみに、★1については、具体的に表現を挙げて次のように説明されています。

「~をしなければ/すれば地獄に落ちる」、「滅ぼされる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を脅すこと、恐怖の刷り込みを行うこと、児童を無視する・嫌がらせをする等拒否的な態度を継続的に示すことで、宗教活動等への参加を強制することや進路や就労先等に関する児童本人の自由な決定を阻害すること(保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入の拒否等を含む。)は、いずれも心理的虐待又はネグレクトに該当する。

出所:厚生労働省「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」(2022年12月27日)

宗教2世である児童が上記のような虐待を受けている場合に、国や地域にはどのような支援先があるのでしょうか。

市川市には、現時点では「宗教2世問題」専門の相談窓口がないということですが、「虐待かもしれない。でも、しつけかもしれない。判断がつかない」というケースも含め、「子ども家庭支援センター」に連絡することをおすすめします。つらい目に遭っている子ども本人でも、第三者でも構いません。

市川市 子ども家庭支援センター
https://www.city.ichikawa.lg.jp/chi01/1511000004.html

来所でのご相談
電話 047-711-0679 
場所 市川市役所 第一庁舎2階(八幡1-1-1) 
電話またはオンライン窓口予約で事前にご予約ください(上記Webページより)。

電話でのご相談
電話 047-711-0679(子育て相談専用) 047-711-3750(虐待相談ダイヤル)
電話での相談受付時間は月曜日~金曜日 午前9時から午後5時(年末年始・祝日を除く)

参考までに、市川市公式Webサイト内の「児童虐待をなくそう」というページを紹介します。

市川市公式Webサイト
児童虐待をなくそう
https://www.city.ichikawa.lg.jp/chi01/1111000010.html

子どもの健全な育成を妨げることが虐待にあたります。殴ったり、けったりすることだけが虐待ではありません。

<身体的虐待>
 子どもにけがなどをさせること。殴る、ける、投げ落とす、熱湯をかける、たばこによるやけど、冬に戸外に締め出すなど。

<心理的虐待>
 子どもの心が傷つくような暴言をあびせること。子どもを無視したり、拒否的な態度を示す。他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをするなど。

<保護の怠慢・拒否(ネグレクト)>
 子どもに必要な世話を怠ったり、放っておいたりすること。食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。例えば、乳幼児だけを家に残してたびたび外出したり、汚れたおむつを長時間つけたままにするなど。

<性的虐待>
 子どもにわいせつな行為をしたり、させたりすること。例えば、子どもに性的行為を強要したり、ポルノグラフィーの被写体に強要するなど。

出所:市川市公式Webサイト、「児童虐待をなくそう」(更新日:2022年1月31日)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/chi01/1111000010.html、2023年3月23日閲覧

再び、厚生労働省「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」に戻ります。ここに、「宗教等を背景とする児童虐待を経験した者に対し、想定される公的な支援策としてはどのような事業等があるのか」という問いがあります。これに対して、次のような回答が示されています。長いですが、大変重要なので紹介します。

宗教の信仰等を背景とする課題に関し、各種の相談支援や生活支援等については以下のとおりであり、こうした支援等を適切に利用することができるよう、児童相談所等においてサポートすることが必要である。
なお、これらの他、児童に対する相談支援等のために児童相談所が助言を仰ぐことができる専門機関等について現在確認中であり、別途、お示しする。

【総合的対応窓口(相談先が分からない場合)】
○ 法テラス「霊感商法等対応ダイヤル」
「旧統一教会」問題やこれと同種の問題でお悩みの方(こども本人を含む)を対象に、相談窓口情報を案内するフリーダイヤルを開設している。
経済的にお困りで法的トラブルを抱えた方は、法テラスによる無料法律相談や弁護士費用等の立替えを利用できることがある。
(電話番号:0120―005931(フリーダイヤル))
(メール問合せ)
https://www.houterasu.or.jp/houterasu_news/reikandaiyarumail.html

【金銭・法的トラブルを抱えている方への支援】
○弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口
家庭内トラブルや児童虐待などこどもに関する問題について、多くの地域の弁護士会が電話や面接で無料の法律相談を行っている。保護者の協力なくこども本人が相談できるほか、児童相談所等からの相談も受け付けている相談窓口もあり、相談方法などの詳細は以下参照。
※相談窓口一覧
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/child.html

【高校生等への修学支援】
国内に住所を有し、一定の基準を満たす場合は、高等学校等の授業料や授業料以外の教育費の支援を受けることができる。
授業料の支援(高等学校等就学支援金)は、世帯所得が一定額未満である場合、入学後に学校で手続を行うと、国から各都道府県等を通じて学校に授業料が支援される(学校が代理受領する)仕組みとなっている。
また、教科書費、教材費など、授業料以外の教育費の支援(高校生等奨学給付金)は、生活保護世帯、住民税所得割非課税世帯であれば、奨学金の支給(返還不要)を受けることができる。

(制度詳細等に関する相談等の窓口)
① 授業料支援(高等学校等就学支援金)の場合
・公立高校等
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1292209.htm
・私立高校等
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1292214.htm
・国立高校等
文部科学省初等中等教育局修学支援・教材課高校修学支援室
高校修学第一係(電話番号:03-5253-4111【内線3577】)

② 授業料以外の教育費支援(高校生等奨学給付金)の場合
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/detail/1353842.htm
※ 上記のほか、都道府県において、貸与型奨学金や都道府県独自の通学費等の支援が存在する場合もあるため、各都道府県に相談すること。

【大学等への進学支援】
○高等教育の修学支援新制度
大学、短期大学、高等専門学校、専門学校に通う、住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生等を対象に、授業料等の減免措置と給付型奨学金を支給
(より幅広い世帯収入の方を対象に奨学金をお貸しする制度もあります。)
※支援内容や手続きなどの相談窓口
○各大学 ・専門学校等の学生課や奨学金窓口
○日本学生支援機構 奨学金相談センター
電話:0570-666-301

【生活困窮している方への支援】
生活困窮者支援に関する相談窓口(※1)を全国の福祉事務所設置自治体に設置し、支援員が電話や面談等により相談支援を行っているほか、資産・収入が少なく、住まいにお困りの方への一時生活支援事業(一時的な宿泊場所や食事の提供等を行いながら、就労等による自立を支援)を実施している。
また、ハローワーク(※2)において、一人ひとりのニーズに応じた就職支援を実施しているほか、就労にあたって不安や困難を抱えている若者等(15 歳~49 歳の無業の方)を対象とした地域若者サポートステーション(通称サポステ)(※3)において、キャリアコンサルタント等による専門的な相談支援などを行っている。
(※1)自立相談支援機関 相談窓口
https://www.mhlw.go.jp/content/000936284.pdf
(※2)全国のハローワーク
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/hellowork.html
(※3)全国のサポステ
https://saposute-net.mhlw.go.jp/station.html

【心のケアが必要な方への支援】
各都道府県等に設置されている精神保健福祉センター(※)において電話相談を実施している。
また、社会的な繋がりが希薄な方などの相談先として、24時間365日無料の電話相談として、一般社団法人社会的包摂サポートセンターが寄り添い型相談支援事業(よりそいホットライン)(※※)を実施しており、電話相談に加え、必要に応じて、面接相談や同行支援を実施して具体的な解決に繋げる寄り添い支援を行っている。
(※)精神保健福祉センターの連絡先
https://www.zmhwc.jp/centerlist.html
(※※)よりそいホットライン:
0120-279-338(岩手県・宮城県・福島県以外にお住まいの方)
0120-279-226(上記3県にお住まいの方)

【学校における教育相談】
宗教に関する悩みや不安を含め、学校において、スクールカウンセラーによる児童生徒・保護者に対する心のケアや、スクールソーシャルワーカーによる必要な機関への仲介を実施。
また、通話料無料の24時間子供 SOS ダイヤル(※)によって、電話で相談する児童生徒への支援を行っている。
(※)24時間子供 SOS ダイヤル:
0120―0-78310

出所:厚生労働省「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」(2022年12月27日)、https://www.mhlw.go.jp/content/221227_02.pdf、2023年3月23日閲覧

以上、「宗教2世問題」を巡る市川市議会での質問と回答をYouTubeで視聴したことをきっかけに、短時間で調べたことを列挙しました。最後に紹介したように、様々な相談支援、生活支援が用意されています。しかし、たくさんの選択肢から、どれを選べばよいかわからないという児童もいることでしょう。

未成年の2世が悩みを抱えても、数ある行政の窓口の中から適切な窓口を探すことが困難です。どこに助けを求めていいかわからない、助けを求めても支援につながらないと考え、苦悩を深めてしまう状況にあります。こうした状況を解決するためにも、社会福祉士精神保健福祉士公認心理師など専門的な知識を持った支援者が2世と適切な行政の窓口を橋渡しする役目を担うことが重要です。そうした支援が途切れないよう、行政は支援者への補助も含めて、体制を整備していくことが望ましいのではないか」

出所:NHK NEWS WEB、「誰にも相談できず 親にも言えず ずっと自分の中に押し殺して…」(2022年12月23日)における北海道大学 櫻井義秀教授のコメント、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221223/k10013932281000.html、2023年3月23日閲覧

精神福祉士、公認心理師については、厚生労働省の説明を参照してください。

厚生労働省公式Webサイト
メンタルヘルスの専門家について
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/consult_5.html

なお、市川市では、様々な方法(LINE、チャット、電話など)で、市民の悩みを聞いてくれるプラットフォームを用意しています。

市川市公式Webサイト
こころの健康相談
https://www.city.ichikawa.lg.jp/pub03/1111000209.html

また、市川市には、無料で気軽に相談できる場所として、「いちかわみんなのほけんしつ」もありますよ。

長々と失礼しました。そろそろペンを置きます。また、お会いしましょう。フリースタイル市川のノスタルジー鈴木でした。