【ローカルメディア漫遊記】『クラナリ』は名を与える

コラム

いよいよ始まる連載『ローカルメディア漫遊記』の第1回目に取り上げるのは、文筆家で、当企画誕生のきっかけとなったワークショップの主催者でもある、森真希さんによるWebマガジン『クラナリ』です。

本編を始める前に、このシリーズは一体何なのかを簡単に説明しておきたいとも思ったのですが、繰り返し何度も同じことを書くよりも、過去に書いた記事のリンクを貼る/張る※1という、X世代※2の筆者が慣れ親しんだ方法を採用することにします。シリーズ誕生の経緯や、コンセプトは、こちらの記事でご確認ください。

それでは、(ほぼ)※3市川市のローカルメディアを取り上げ、読者視点で語る連載『ローカルメディア漫遊記』の第1回、本格的に始めましょう。

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暮らしと生業をつくる クラナリ
http://life-livelihood.blogspot.com/

元々、『クラナリ』は、「市川で暮らしと生業をつくるリトルマガジン」、つまり、紙の雑誌として出版され、販売されていました※4(現在は休刊)。
森さんは、引き続き、市川市の様々な事象を観察、探究、調査、取材しており、執筆した記事をWeb版の『クラナリ』で公開しています(以下、『クラナリ』は全てWeb版のことを指します)。

『クラナリ』に掲載されている記事のテーマは多様で、市川市の現在、過去、未来について端正な筆致で書かれた文章は、読むことの快楽を想い出させてくれます。シリーズものも多く、新作を読むとすぐに次回の記事が楽しみになります。つまり、病みつきになります。

※5なりに『クラナリ』の記事、文章の特徴を表現するならば、次のようになります。

森さんの「ユニークな着眼点」と「ズバッと提示される仮説」、そして「気になる事象に名前を付ける」という必殺技が、クールに、鮮やかに、炸裂する!

さあ、ここからは『クラナリ』の記事を紹介していきます。

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最高に気持ちよい市川へ 
 ~市川リゾート・市川リトリート・市川リノベーション構想 概要

https://life-livelihood.blogspot.com/2019/12/blog-post_26.html

この記事で、森さんは、市川は「知る人ぞ知る、上質な癒しの場」であると考え、「市川リゾート・市川リトリート・市川リノベーション構想」を提案しています。

  • 市川リゾート(resort):水運を利用したレジャーの再生
  • 市川リトリート(retreat):スパ、薬膳、施術などを組み合わせた空間(癒しの隠れ里)の創出
  • 市川リノベーション(renovation):行徳や中山などの商店街の新たなブランド確立とPR

3つの「R」を実現することで、〈市川市民にとって市川は、東京での仕事や遊びなどの疲れが癒され、静かに活力がわいてくる、最高に気持ちのよい場所に変化します〉と言います。

「市川市民にとっての地元・市川」を、「最高の場所」にするための「市川3R構想」。魅力的です。フリースタイル市川のメンバーと、この構想について話し合ってみたいと思いました。

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ハイソ真間川シリーズ

「ハイソ※6真間川シリーズ」は、正式(?)には2本の記事で完結しているのですが、完結した後も森さんは『クラナリ』で「ハイソ真間川」のことを折に触れて記事にしています。
そこで、ここでは以下4本の記事を「ハイソ真間川シリーズ」とします。番号は便宜上付けたものです。

1. ハイソ真間川はどこからどこまでなのか問題
https://life-livelihood.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

2. 真間川であって真間川じゃない!? ハイソ真間川問題 完結編
https://life-livelihood.blogspot.com/2019/07/blog-post_10.html

3. ハイソ真間川飛地問題
https://life-livelihood.blogspot.com/2020/01/blog-post_10.html

4. ハイソ真間川の拡充を求む!
https://life-livelihood.blogspot.com/2019/12/blog-post_25.html

1と2は是非読んでいただきたい記事です。森さんが気になってしょうがない「ハイソ真間川」とは、どこを指すのか。そして、「(ハイソ)じゃないほうの真間川」との違いは?要チェックです。

2番目の記事から、森さんの言葉を引用しましょう。

  • ハイソを象徴する木製の柵と花
  • 脇道の舗装もハイソ
  • なんということでしょう、舗装にビー玉が混じっているなんて! ハイソ~
  • うょしまめや

さて、1と2の記事で完結したはずだった「ハイソ真間川シリーズ」ですが、3番目の「ハイソ真間川飛地問題」という記事が書かれています。この記事から引用します。

昨年7月の調査で、ハイソ真間川問題は完結したはずでした。
しかし、甘かったのです。
浅間橋を越え、「じゃないほうの真間川」を確認して安心したのが、いけませんでした。
(略)
ハイソ真間川とそうじゃないほうで、これほどまでに差をつけられると、作為的というか意図的というかえこひいきというか、かなりひっかかりますね。

ですから、『クラナリ』では強く求めます。

ハイソ真間川の拡充を!

出所:『ハイソ真間川飛地問題』 https://life-livelihood.blogspot.com/2020/01/blog-post_10.html 
※太字は筆者(ノスタルジー鈴木)による強調
2021年にノスタルジー鈴木が撮影した、真間川にかかる「ハイソ」な橋と桜の花(染井吉野)。

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シュルレアリスム公園シリーズ

『クラナリ』には、「シュルレアリスム※7公園へようこそ」と題された一連の記事があります。公園につきものの子どもの姿が、まったく目撃されない、そんなシュルレアリスム公園について、たくさんの記事が書かれていますが、ここでは3つの記事のタイトルを紹介しましょう。

1. シュルレアリスム公園へようこそ ~ここにはないのに(国分)
http://life-livelihood.blogspot.com/2021/07/blog-post_21.html

2. シュルレアリスム公園へようこそ ~地中に半身を埋められた小鹿(真間)
http://life-livelihood.blogspot.com/2021/05/blog-post_21.html

3. シュルレアリスム公園へようこそ ~白い涙を流すパンダ(真間)
http://life-livelihood.blogspot.com/2021/05/blog-post_77.html

なんだか、クラナリというバンドのアルバム『シュルレアリスム公園へようこそ』に収録された曲名のような記事タイトルですね。

「それではお聴きください。クラナリのニュー・アルバム『シュルレアリスム公園へようこそ』より、『白い涙を流すパンダ』です。どうぞ!」

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『クラナリ』には、他にも「勝手にパワースポット」「市川駅南口アーケード街を巡る時間旅行」といったシリーズがあり、どの記事でも、森さんのユニークな視点と鋭敏な感覚が捉えた市川市内の事象が、鮮やかに綴られています。

紹介した通り、着眼点がとても面白く、「市川3R構想」、「ハイソ真間川」、「シュルレアリスム公園」などの命名にもグンバツ※8のキレがありますね。

市川市で、ある事象が気になると、しっかりと資料に当たって、あるいは自分の脚と目を使って調べ(時には途中で飽きてしまうことも!)、整理し、不明な点については仮説を立て、考察をした上で、その事象や提起した問題に名前を与える――そんな『クラナリ』の世界は他にはない魅力に満ちています。

市川市に関わりのある人には、是非、『クラナリ』を味わっていただきたいと思います。

〈注釈〉
※1:「リンクを張る」は、張り巡らせるというような意味合いで、「リンクを貼る」はコピーしたURLを貼り付けるという意味合いで使います。

※2:コトバンクによると、X世代(ジェネレーションX)とは、〈欧米諸国で、第二次大戦後のベビーブームの後に生まれた世代をいう。1960年代から1980年代初頭までに生まれた世代で、個人主義的傾向が強いといわれ、ミージェネレーションともよばれる〉とのこと。
※3:「ほぼ」を付けているのは、たまには市川市を飛び出すこともありますよ、という宣言のようなものです。飛び出す頻度は高くないはずなので、括弧で括っています。
※4:Webサイトによると(紙の)『クラナリ』は、〈ライフサイクルに合わせて有償・無償問わず仕事を調整したり、市川で新しく仕事をつくったりしている人を紹介する〉雑誌でした

※5:申し遅れましたが、本稿の筆者は、フリースタイル市川のメンバー、ノスタルジー鈴木です。
※6:ハイソとは、ハイ・ソサエティ(high society)の略で、「高級な」、「上流の」という意味です。ここでは「ハイ・ソックス」の意味では使っていません。
※7:シュルレアリスムとは、Surréalisme(フランス語)で「超現実主義」のこと。
※8:グンバツとは、抜群のこと。抜群とは、群を抜いていること。

ウィノナ・ライダーさん。ジェネレーションXの役者で、ジェネレーションXを題材にした映画『リアリティ・バイツ』に出演。
シュルレアリスムを代表する画家、サルバトーレ・ダリの作品『記憶の固執』。時計が溶けるなど、超現実な世界を描いていますね。