本稿の読者は、公園のベンチの話から始まり、本八幡駅北口再開発の話を経て、再びベンチの話題に戻る、という、ワインディング・ロードを走るバイクのような軌跡を辿ることでしょう。曲がりくねった秋の道を走るように、のんびりとお読みください。
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新場山公園のベンチ(その1)
冒頭の写真は、市川市塩焼4丁目の「新場山公園」に設置されているベンチです。昨日(2022年11月27日)、私はここに座り、しばらく視線の先の色づく葉を湛えた樹木を眺めた後、おもむろに寝ました。
寝たと言っても、眠ったわけではなく、身体を横たえたという意味です。柔らかな秋の陽光が気持ちよく、ベンチで眠ってもよかったのですが、空気はそれなりに冷たく、風邪でもひいてはいけないと思い、眠りはしませんでした。
静かな公園のベンチに身体を横たえて、ぼーっとする時間は、とても贅沢に感じられました。
ちなみに、この新場山公園には、半球型のジャングルジムがありました。珍しい遊具ですね。三角形の組み合わせで多面体をつくっています。最も小さい三角形がいくつあるか数えようとしましたが、底面が十五角形であることを確認したところで、頓挫しました(数えたよ!という人がいたら、教えてください)。
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新場山公園のベンチ(その2.LOVEベンチ)
ところで、新場山公園で私が座り、そして寝たベンチには、あるメッセージが書かれていました。
塩焼を訪れる際は、「LOVEベンチ」をチェックしてみてください。
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ぴあぱーく妙典のインクルーシブ遊具
この新場山公園からほど近い場所に、造成工事中の新しい公園「ぴあぱーく妙典」があり、一部が先行公開されていたので、昨日、坊と行ってみました(遊具広場のオープンが一昨日、2022年11月26日だったようです)。
この広場は、障がいのある子もない子もみんなで楽しめる「遊具広場」です。
子供も大人も遊びを通して多様性を自然と受け入れ、人や社会とつながりが生まれる場所となることを目指しています。
出所:市川市公式Webサイト、「ぴあぱーく妙典 遊具広場」(2022年11月24日)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/gre04/0000411218.html、2022年11月28日閲覧(太字は筆者)
上で引用した文は、市川市公式Webサイトに掲載されている「ぴあぱーく妙典 遊具広場」の説明です。遊びを通して多様性を自然と受け入れる、とは、どういうことでしょうか?
「ぴあぱーく妙典」という名称にこめられた意味を確認すると、その意味が少しわかりました。
保育園・児童発達支援センター、こども施設や、公園内に設置するインクルーシブ遊具により、誰もが垣根なく友人になれるようにという思いを込めて、仲間・友人などの意味を持つ「peer(ぴあ)」と公園「park(ぱーく)」を組み合わせた愛称です。
出所:市川市公式Webサイト、「『地域コミュニティゾーン』の愛称が決定しました!」(2022年11月24日)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/gyo07/0000415883.html、2022年11月28日閲覧
どうやら、この遊具広場に設置されている遊具は「インクルーシブ遊具」というものらしいです。これらの遊具は、誰もが遊べるように設計(デザイン)されている、ということでしょうか。
「インクルーシブ遊具」について調べてみましょう。
海外遊具メーカーの輸入代理店のインテルコ株式会社のWebサイトには、次のような説明が掲載されています。
インクルーシブ(inclusive)は「全てを含んだ/包括的な」という意味を持つ言葉です。
出所:インテルコ株式会社公式Webサイト、http://www.intelco.jp/inclusive.html、2022年11月28日閲覧
転じて、身障者もそうでない人も、様々な事情を抱える人々が分け隔てなく
一緒に楽しめるよう設計された遊具をインクルーシブ遊具と呼びます。
欧米諸国では公園のプレイエリアにおけるインクルーシブ遊具の導入が義務付けられているため、
スロープやアクセスポイントの充実に留まらず、専門家も交えて様々な視点から研究を重ね、工夫を凝らした遊具が開発されています。
ハンディキャップを抱えている人であっても、他の人と同じように、あるいは、排除されることなく一緒に遊べるような遊具、それを、インクルーシブ遊具と呼ぶようですね。
確かに、ブランコは一般的なそれとは異なるデザインのものでしたし、球形のジャングルジムのような回転する遊具(グローブジャングルという名称だそうです。グローブは、マーク・パンサー、KEIKO、TKから成るユニットの名前と同じ綴りのglobeで球体と言う意味です)がない代わりに、座って乗れる回転遊具(いわば、回転する浅いお椀)がありました。これらの遊具が「インクルーシブ遊具」だということを知らなかった昨日の私は、ちょっとデザインが変わっているな、と思っただけでしたが、ちゃんと設計思想があったのですね。調べてみてよかったです。
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ぴあぱーく妙典と稲荷木第一公園の肘置き付きベンチ
ぴあぱーく妙典の遊具広場の近くには「調節池」がありました。ちなみに、こちらの所在地は下妙典ではなく、妙典5丁目23-1です。
人工の水溜まりである、この調節池には、まだ生き物がいる感じがほとんどしませんでした。1匹、トンボが飛んでいるのを見た程度です。時間が経って、水草が繁茂し、小動物や昆虫が増え、池が賑やかになるのが楽しみです。
ところで、池の畔にはベンチがいくつか設置されていました。
真新しい、ピカピカのベンチです。
最近、これによく似たベンチを市川市内で見たような気がする、と思い、スマホに保存されている写真を確認してみると、ありました。稲荷木第一公園にあった、このベンチです。
これら2つのベンチの共通点は、肘置きが付いていることです。
これがあると、肘を置けるのです(atarimae des ne)!
ベンチに座った時、肘を置きたいな~と思い、このような肘置きがあると便利ですよね(もっとも、ベンチで肘を置きたいと思うことが、どのくらいあることなのか、私にはわかりませんが)。
また、見知らぬ人物がベンチで隣に座り、自分との距離を縮められることがあると、身の危険を感じるかもしれません。肘置きがあると、人と人の距離(ディスタンス)を保つことができます。安全・安心※1なベンチですね。
一方、眠い時、疲れている時、酔っぱらって気分が悪い時、熱中症で寝たい時などに、ベンチに肘置きがあると寝られません。
恐らく、この種の肘置きは、疲れていたり体調が悪い人を寝させないために設置しているわけではないでしょう。ホームレスが寝たり、スケートボーダーが上を滑ることを防ぐために設置しているのではないか、との見方をする人が多いようです。
ホームレスが寝ないように、ベンチに肘置きを付けているのだとすると、このベンチは「インクルーシブ・ベンチ」とは言えないと思いますが、どう思いますか?
本八幡駅北口再開発基本構想を読んでみました
少し話が変わりますが、JR本八幡駅の北口で再開発が計画されています。2018年度に市川市が作成した再開発の基本構想が公開されており、誰でも見ることができます(PDFファイル)。
本八幡駅北口再開発基本構想~歴史と未来をつなぐ行政・文化中心地の創造~(2018年度、市川市)
https://www.city.ichikawa.lg.jp/common/000315113.pdf
本八幡駅の北口、右手にある商業ビル「パティオ」の裏側の一帯には、細い路地があり、パブやスナックなども多く、実に趣があります。八幡一番街には、サイゼリヤの1号店だった場所が今も記念館として保存されています。人の営みが見えない空気の層となって、ストリートの一角に、お店のカウンターに、蓄積しているような場所です。
一方、老朽化した建物もあり、道幅が狭いため、火災や地震が発生した際に緊急車両が入りづらいことなどが懸念されます。混沌とした雰囲気は、人によっては入りづらく危険を感じるであろうことも、想像に難くありません。緑もほとんどありません。
この一帯が、どのように再開発されるのか、市川市はどのようなビジョンを描いているのか、是非、上で紹介した「本八幡駅北口再開発基本構想」を見て確認してほしいです。
基本構想の副題には、「歴史と未来をつなぐ」、とあります。「飲み屋街」の歴史は、どのように継承されるのでしょうか。基本構想には、八幡一番街に、歌舞伎の舞台小屋のような建物が描かれているイメージ図があります。このような一番街を形成しようとしているのでしょうか。
再開発によって、どんな場所に生まれ変わるにしても、これまでその場所で過ごしてきた人々がつくってきた歴史を、忘れ去り、捨ててしまうのではなく、きちんと継承していってほしいと思います(あえて明言していませんが、コラムなどで述べられている意見は、フリースタイル市川の団体としての意見ではなく、筆者がその時点でそう思っている、という風にご理解ください)。
ところで、再開発によって、「安全・安心」な町/街が生まれた場合、暮らす人や来る人の顔ぶれが変わることが想定されます。
便利、安全、綺麗に整備されたピカピカの町/街には、タワーマンションが建つかもしれません。そうなれば、地価は上昇し、高所得層が住むようになるでしょう。そして、元々、このエリアにあったスナックやパブは激減するかもしれません。
こういった店が「自分の居場所」になっていた人たちは、この街/町からいなくなってしまうでしょう。
谷口功一氏は、図書館や公園などが「昼の公共圏」だとすると、スナックは「夜の公共圏」だと言います。そして、スナックは地方創生の鍵を握っていると力説、駅前の商店街が衰退しても社交の場として残るスナックを拠点に地域活性化を図れる、とも。
また、谷口氏によれば、スナックが、自宅と仕事場に続く、心の落ち着く第3の居場所となることで、個人が社会から孤立せず、心理的に安心できる状態(社会的包摂)となるということです。
出所:フリースタイル市川公式Webサイト、「【スナックえみり】知らない人と出会い、知らない自分と出会う夜」(2022年11月13日)、https://fs-ichikawa.org/snack_emiri20221118/、2022年11月28日閲覧
このように、再開発によって都市が富裕化・高級化することを、「ジェントリフィケーション」と呼びます。
便利、安全、綺麗に整備された、新しい街/町には、これまでそこにいなかったような高所得層や、幼い子を連れた若いカップルなどを引き寄せるでしょう。
一方、これまでそこにいた人たちを排除する可能性があります。他に行く場所があるのか、新しい場所は探せるのか。長年、その町/街の、その店に通ってきていた常連さんは、どこに行くのか。働いていた人たちは、どうなってしまうのでしょうか(東京オリンピックの開催に伴う再開発で、住んでいた居住地を去ることになった人は、どこにいったのでしょうか)。
1つの家屋や商店などの個別の建物や、部屋などであれば、古い物の良いところは残しながら、現在、未来向けて、変えるべきところを変える、リノベーションという手法が採用できます。
フリースタイル市川が関わった市川市内の物件に、国府台の「アトリエ029」があります。この物件は、元々、お肉屋さん(精肉店)だったもので、かなり古い建築でしたが、リノベーションにより、歴史を感じられる要素をなるべ残しながら、新しい魅力を付け加えて、再生しました。
「アトリエ029」については、以下の記事をご参照ください。
古い街並み、景観は、やがて消えてしまう運命なのでしょうか。個々の建築や道路などのインフラストラクチャーの集合体である町/街の再開発を、「リノベーション的な方法」、または、「リノベーション的な思想」で、実施することはできないのでしょうか。
歴史ある街並みを歩いたり見たりするのが好きな人には、消えゆく運命にあるかもしれない、魅力的な街並みを訪問し、撮影し、丁寧な筆致で見たもの感じたことについて綴っている明里さんの素晴らしいブログ、Deepランドを定期的に訪問し、記事を読みまくることを、強く薦めたいです。
明里さんのブログ「Deepランド」
https://deepland.blog/
2022年5月6日に、「ローカルメディア漫遊記」でも取り上げました。
本八幡駅北口再開発は身近な話題であり、「まちづくりNPO」として活動しているフリースタイル市川としても注目しています。今後も当サイトでは、折りに触れて取り上げます。
町から排除されているのは誰か?
さて、話を強引にベンチに戻します。
先ほど、ぴあぱーく妙典や稲荷木第一公園の、肘置き付きベンチを紹介しました。肘置きなどの突起があるベンチが誰かを排除するものだ、と批判する声は、近年よく聞かれるものです。この話題について、株式会社グランドレベルの田中元子さんが、次のように話していました。
ベンチに突起があることと、日本、特に東京にほとんどベンチがないという問題は、分けて考えないといけないと思います。
突起物のあるベンチを見て「誰かが排除されてかわいそう」ということは簡単です。
でも、そもそもベンチがないことは、私たちみんなが普段から、都市やまちから排除されているのだということに、ほとんどの人は無自覚です。
「うちの前では座らないで」「コーヒーを買わない人は、ここにいないで」と、疲れてもどこにも座れず、立ったまま弁当を食べている人や、植え込みに座ってしまう人をよく見かけます。
町から排除され慣れてしまっているのは、私たちみんな、だと感じます。
出所:Withnews公式サイト、「『排除ベンチ』抵抗した制作者が突起に仕込んだ『せめてもの思い』 ツイートきっかけに撤去、本当の狙い」(2021年7月13日)、https://withnews.jp/article/f0210713003qq000000000000000W08k10201qq000023319A、2022年11月28日閲覧、株式会社グランドレベル田中元子さんの発言
田中元子さんの上の発言を含むこの記事を読むと、公共空間におけるベンチの役割や、居心地の良い場所とは何か、というとを考える上で、大いに刺激を受けるでしょう。興味がある人は、是非読んでみてください。
「『排除ベンチ』抵抗した制作者が突起に仕込んだ『せめてもの思い』 ツイートきっかけに撤去、本当の狙い」(2021年7月13日)
https://withnews.jp/article/f0210713003qq000000000000000W08k10201qq000023319A
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いかがでしたか?やや強引に話題を変えたため、頭が混乱している人もいるかもしれません。その混乱が気分の悪いものではなく、大下かるさん※2の言うところの「脳がピチピチ」する感覚であれば、筆者としても嬉しいです。
今後も、たまには「まちづくり」に関連した内容のコラムを書きたいと思います。
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〈注釈〉
※1:安全・安心という、安全と安心を「・」で結合して1語のように扱う表現を、近年、耳目にする機会が多いと感じます。いや、最近ではないようです。15年前には「安全・安心」は誤った表現だと指摘していた人がいます。
「安全」と「安心」をつないで、「安全・安心」と連語にして使うのは間違っている。「安全」は食なり、住なり、エネルギーなりの事業を行っている当事者が確保するべきものであり、行政は指導監督責任がある。その体制が全体としてまっとうに動いて安全が確保されているのを見て、安心するのは安全の受益者(潜在的被害者)である私たちである。立場が違い、概念が違う。「安心」は、安全確保を怠れば被害を与える側が、被害の潜在的受け手に向かって安易に口にすべき言葉ではない。
出所:Aquarian’s Memorandum、「おかしいぞ、『安全・安心』という連語」(2007年10月2日)、http://aquarian.cocolog-nifty.com/masaqua/2007/10/post_8bae.html、2022年11月28日閲覧
また、8年前にも、この表現を使う人を批判している人がいました。
「安全」は主に安全を確保すべき側の客観的な面をとらえるのに対し、「安心」は受け手側の主観的な面をとらえることばではないでしょうか。これを「・(中点)」でつないで使ったときどういう意味になるのか、私にはさっぱりわかりません。使っている人でもはっきり答えられる人は少ないのではないでしょうか。
出所:伊深まちづくり協議会公式Webサイト、「もうやめてほしい。“安全・安心”の連語」(2014年4月23日)、http://ibukamachi.com/index.php?QBlog-20140423-1、2022年11月28日閲覧
※2:大下かるさんは、市川市で「創作アトリエ いろどりの森」を主宰している画家です。
創作アトリエ いろどりの森 代表
出所:フリースタイル市川公式Webサイト、「【第12回いちカイギ】11月19日(金)開催です」(2021年11月14日)、https://fs-ichikawa.org/ichi012/、2022年11月28日閲覧
画家としての自身の活動の傍ら、臨床美術(クリニカル・アート)をベースとした、創造する楽しさや自分の中にあるワクワクをみつけてもらうワークショップ「創作アトリエ いろどりの森」を主宰。「創作アトリエ いろどりの森」は、アートに馴染みのない方や、何かのきっかけで苦手意識を持ってしまい表現から離れてしまった人、特に、日ごろ忙しく働く社会人へ向けて五感をフルに使い、年齢・性別関係なくコミュニケーションしながら、自由に、楽しく創作することで今まで気づかなかった、本当の自分らしさに向き合うことができる教室です。