岸田文雄首相は、2023年9月13日に内閣改造を行いました。新内閣の閣僚20人のうち女性が全体の25%に当たる5人(改造前の2人の2.5倍)です。5人でも女性閣僚人数は過去最多タイなのかと驚きました。歴代内閣における女性閣僚の少なさに。
ちなみに、2021年時点の主な国の女性閣僚比率は、
オーストリア 57.1%
ベルギー 57.1%
スウェーデン 57.1%
カナダ 51.4%
スペイン 50.0%
フィンランド 50.0%
フランス 50.0%
オランダ 47.1%
米国 46.2%
スイス 42.9%
ポルトガル 42.1%
ドイツ 40.0%
アイスランド 40.0%
ニュージーランド 40.0%
ノルウェー 38.9%
イタリア 36.4%
デンマーク 31.6%
アイルランド 28.6%
韓国 27.8%
オーストラリア 26.7%
イスラエル 25.0%
英国 23.8%
情報出所:統計データ分析家・統計探偵の本川裕氏が運営するWebサイト『社会実情データ図録』「女性閣僚比率の国際比較」https://honkawa2.sakura.ne.jp/5238d.html、2023年9月27日閲覧(文字色は筆者による。赤色太字は50%以上、赤色は40%台、青色は30%台、緑色は20%台)
ちなみに、過去に女性閣僚が5人いたのは、2001年4月発足の小泉内閣と2014年9月発足の第2次安倍改造内閣で、今回の内閣は女性閣僚が5人いる3例目となりました。
岸田首相が、内閣改造に際して行った記者会見で、女性閣僚について、「女性ならではの感性、共感力も十分発揮していただきながら仕事をしていただくことを期待する」と話しましたが、この発言が批判を浴びたことは記憶に新しいと思います。ちなみに、岸田首相が各大臣に対してコメントをした際、初入閣した土屋品子復興相について、「女性ならではの視点を最大限に生かし、被災地に寄り添った復興策に腕を振るってもらう」と述べました。女性だからこそ気付く現場課題(男性だからこそ気付かないということはないと思うのですが)は、あるかもしれません。が、起用した土屋復興相個人に期待することではなく、女性という属性への期待を述べている点に違和感を覚える向きが多かったと思います。
詩人・社会学者の水無田気流氏の言葉が朝日新聞デジタルで紹介されていました。記事より引用します。
「典型的なジェンダーバイアス内面化おじさんの発想」「感性よりも論理的思考力に、共感力より決断力や指導力に優れた女性もいるはず」。社会学者の水無田気流(みなしたきりう)さんはX(旧ツイッター)にそう投稿した。
水無田さんは朝日新聞の取材に「男性には『男性ならでは』と言わないのに、女性だと属性が先立つ。彼女のここが素晴らしいと言わずに属性で語るのは、実力を評価したのではなく、女性としてゲタを履かせたと言っているに等しい」と指摘し、「褒めたつもりで炎上しているのが致命的。なぜ批判されているのか、理解できないのではないか。この政権でジェンダー平等は進まないと、絶望的な気持ちになった」と言う。
出所:朝日新聞デジタル「『褒めたつもりで炎上、致命的』 岸田首相『女性ならでは』に失望」(2023年9月15日)https://www.asahi.com/articles/ASR9G6K7BR9GUTIL010.html、2023年9月27日閲覧(太字は筆者)
また、鎌田和歌氏は、「ダイヤモンドオンライン」に寄稿した論考「岸田首相『女性ならではの感性』に批判殺到、なぜウンザリ発言を繰り返してしまうのか?」(2023年9月15日、https://diamond.jp/articles/-/329017、2023年9月27日閲覧)で、以下のような指摘をしています。
- 女性が少ない場面で「女性ならではの感性」というような言葉が用いられる
- 男性の場合は「男性ならではの感性」ではなく「その人個人の感性」を求められることに対し、女性が「女性ならではの感性」を期待されることはおかしなこと
- 性別による特性(「女性は共感力にたけている」「女性は共感思考で男性は論理思考」など)最近では否定されており、性差よりも個人差の方が大きいと考えられている
- 「性別による特性が個人差よりも大きい」ことを前提とするような表現は、「男性は共感力が低い」「女性は論理的思考ができない」などの偏見や差別につながりうる
- 「女性ならではのしなやかな感性」という表現があるが、女性が生まれつき男性よりも「しなやかな感性」を持っているという科学的根拠はない(そう見えるとすれば、男性中心社会で女性が「適応力、「調整力」、「職場の潤滑油」など、アシスタント的な役割を期待されてきたことと関係があるのではないか)
誰かのは発言が問題視されている様を傍目に見ながら、なぜ炎上しているのだろう?と疑問に思うことがあります。そんな時に、SNSなどに、「なぜ炎上しているかわからない」と投稿してもよいのですが、「わからない」のであれば、炎上するほどに反発される理由、批判している人たちの意見を、知ろうとしてみればよいと思います。
「女性が社会に出るとどうしても個人ではなく、ジェンダーを枕詞に語られることが多い。それは本人の実力ではなく、女性だからできているのだと言っているも同然です。また〇〇ならではという言葉は、その属性の特定のイメージや役割に人を閉じ込めてしまいます。多くの場面で悪意がなく使われているのが怖いところ。これは差別につながるマイクロアグレッションのひとつとも言えるでしょうね」。
マイクロアグレッションとは無意識の偏見や思い込み、無理解の言動で相手を傷つけることを表す言葉だ。人種やジェンダー、性的嗜好、宗教など、さまざまな場面で見られ、受け取った側が侮辱されていると感じる言動のことである。
もし、今回の岸田総理の発言を聞いてまるで違和感を持たないという人がいたのなら、その人はきっとマイクロアグレッションについてまるで知らないのだろう。もしかしたら、すでに加害者になっているかもしれない。
出所:FORZA STYLE、「『女性ならではの共感性…』岸田発言ってどこがヤバいの?逆に褒めてるじゃん」無自覚なモラハラ親父が日本を壊している「これだけの理由」(2023年9月17日)https://forzastyle.com/articles/-/68991、2023年9月27日閲覧(カッコ内は、危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏の発言。太字は筆者)
日々、SNSでは火が立ち上っています。もちろんこれは比喩です。炎上という言葉はあまり良い比喩ではないと常々思っていますが。
火のないところに煙は立たない、これも比喩ですね。比喩ばかり使うと本質を見誤ります。注意しなくては。自戒を込めて、比喩の安易な多様には気を付けたいと思います。
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上のパートに、「ジェンダーバイアス」や「マイクロアグレッション」といった専門用語が登場しています。これらについて、何の説明もしないのは無責任なので、ちゃんと説明します。
アンコンシャスバイアス
偏見や先入観、個人の体験などに基く、思い込みや誤解により、理解、判断、思考がゆがんでしまうこと。無意識から生じている点が大きな特徴。
※ジェンダーバイアスは、アンコンシャスバイアスの代表例。
ジェンダーバイアス
男女の役割に無意識に固定的な観念を持つことや、それによって、社会的な評価や扱いが低くなること、差別的になること。「男性らしい」「女性らしい」(「男らしさ」「女らしさ」「女性ならでは」)など、性別を理由にして、個人に期待する発言をすることが、ジェンダーバイアスの表れの代表例。
マイクロアグレッション
小さな(マイクロ)攻撃性(アグレッション)を意味する言葉で、発言や行動が(そのような意図がないにも関わらず)、相手を差別したり、傷つけてしまうこと。こうした言動の背景に、性別など(他に例えば、人種、障害、価値観など)、自分と異なる人に対する無意識の偏見や無理解、差別心が含まれている。
※3つの用語解説の参考文献:IDEAS FOR GOOD 「マイクロアグレッションとは・意味」https://ideasforgood.jp/glossary/micro-aggression/、村井社会保険労務士事務所「アンコンシャスバイアスとは?会社組織における具体例と原因を社労士が解説」https://masako-murai.org/blog/unconscious-bias/
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でも、この記事は市川市と関係あるの?
と、思った読者もいるかもしれません。当サイトには様々な記事が掲載されていますが、「something about 市川市」に言及していないものは皆無です。ご安心ください。安心です。安心ですメロン(を略してアンデスメロンという名になったことをご存知ですか?)。
※安心という語を含む「安全・安心」という言葉が溢れているこの社会ですが、この言葉が「変」であることはご存知ですよね?
I’ve digressed from the topic.――話が逸れました。
Let’s get back to the main topic.――本題に戻ります。
2023年5月22日に、「男らしさ、女らしさを否定することなく/専業主婦を否定することなく/育児における父性と母性の役割を大切に…市川市」と題したコラムを公開しました。
このコラムでは、2021年6月25日の市川市議会で、植草耕一総務部長が答弁した内容を紹介しています。「市川市男女共同参画社会基本条例」の異質さが、他市の同様の条例との比較によって、よくわかります。植草氏が話した内容の主旨は以下の通りです。
・現行の「市川市男女共同参画社会基本条例」では
「男らしさ、女らしさを否定することなく」
「専業主婦を否定することなく」
「育児における父性と母性の役割を大切に」
など、他市の同様の条例には見られない文言が使われている
・近隣市の条例では、男女の性別による固定的な役割分担を否定する文言が多く見られる
また、その少し前には「『市川市男女平等基本条例』と『市川市男女共同参画社会基本条例』の違い」というコラムを公開しています。
2002年12月に制定された「市川市男女平等基本条例」は、「男女の実質的な平等を実現するため、それを阻んでいる要因を取り除き、男女が互いに人権を尊重し、共に自立した個人として平等に社会参画し、いきいきと安心して暮らしていける市川市を築くことを目的」としたものでした。2006年に、これを廃止し、新たに「市川市男女共同参画社会基本条例」を制定、2007年4月から施行され、今に至ります。
現行「市川市男女共同参画社会基本条例」の内容を知らないという人も多いと思いますが、上の記事で内容をチェックしているので、是非とも記事を読んでみてください。本稿で取り上げた、ジェンダーバイアスが、この条例には埋め込まれていると言わざるを得ません。ジェンダーバイアスを社会からなるべくなくしていこうとするならば、条例からも、社会の(市川市という地域における)ジェンダーバイアスを強化する、維持する、保持するような内容は取り除くべきではないでしょうか。
今後も、ちょっとした言葉に目くじらを立てていきたいと思います。
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執筆日 2023年9月27日
公開日 2023年9月28日