【コラム】自然博物館の「自然観察週報」は週報どころか日報、否、超日報!

コラム

当サイトには、「ローカルメディア漫遊記」と題したシリーズ記事があります。連載と呼ぶには、更新頻度が低い、忘れた頃に突然更新されるといった類のシリーズです。

本稿で取り上げる、市立市川自然博物館の学芸員さんによる毎週の観察記録のまとめである「自然観察週報」は、後述するように、とても貴重なアーカイヴで、植物や動物に詳しいわけではない人にとっても興味深い内容になっていますが、ローカルメディアではないと思い、「漫遊記」ではなく、「コラム」で扱うことにしました(どのカテゴリーにするかは、読み手ではなく書き手の勝手な都合ですね)。

ちなみに『自然環境政策専門員の観察日記』は「漫遊記」で取り上げていますよ。

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それでは、「自然観察週報」を紹介していきましょう。

市川自然観察園 自然観察週報
https://www.city.ichikawa.lg.jp/edu16/1111000041.html

上のリンク先のウェブページをご覧いただくとわかりますが、過去の自然観察週報がエクセル形式でまとめられており、1年分が1ファイルになっています(自由にダウンロードできます)。

1998年3月以降の記録を確認できます。ヌ・アント!26年分です!超えているんですよ、四半世紀を。

そして、週報とは銘打っていますが、2023年は1日1回のペースで366回、2022年にいたっては、驚くべきことに411回も記録が付けられています(カネヤン=金田正一投手=の通算勝利数400をも超えています!)。週報というと、1年は52週なので、1年に52回前後、記録を残すのかと思いますよね。それが、1日1回以上なのです。日報を超えた、超日報super daily report※1

自然観察週報と名乗りながら、その実態は、自然観察超日報!

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実際に、どんな内容が記録されているか見てみましょう。

日付:24年03月01日(金曜)

場所:長田谷津

生物名:モズ

できごと:新しい田んぼを作りたくて、湿地を掘りました。休んでいると、近くのハンノキの枝にモズが止まっていました。休んでいないで早く掘って、と言わんばかりの顔でした。餌が掘り出されるのを待っているのです。

観察者:金子

出所:市川市自然博物館公式ウェブサイト、自然観察週報「2月25日から3月2日の自然観察週報」(2024年3月21日更新)、https://www.city.ichikawa.lg.jp/edu16/1111000041.html、2024年3月23日閲覧、太字は筆者

これは、今年3月1日の記録です。金子さんのモズに向けられた眼差しがなんとも素敵です。そして、「田んぼを作りたくて、湿地を掘りました」という活動が記録されていることで、学芸員の皆さんの日常も垣間見えるところも魅力になっています。

金子さんからは、以前、とても丁寧なメールをいただい(て、感激し)たことがあります。それについては、この記事に載せているので、是非読んでみていただきたいです。

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ちなみに、冒頭の写真の鳥はオナガです。

小学校低学年の頃、祖父母からお小遣いをあげるから好きな本を買ってきなさいと言われて、従兄弟たちと一緒に、書店に行ったとき、彼らが『ドラえもん』のコミックなどをチョイスするのを尻目に、小学館の図鑑『鳥』を買い、熱心に読んだ私ですが、今や全く鳥に詳しくありません。そんな私は、先日、市川市自然博物館を訪れた際、掲出されていたオナガの解説文を読んで、そうだった、オナガはカラスの仲間=スズメ目カラス科オナガ属=だった、と 思い出しました。すっかり忘れていました。この鳥の鳴き声は特徴的で、私は、村上春樹氏の『ねじまき鳥クロニクル』に登場する「ねじまき鳥」は、オナガなのではないかと思っています。

なお、自然観察週報には、オナガの登場回数は少ないです。主な対象地である長田谷津には、あまり姿を現さないそうで。

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話が逸れました。

超日報(本当の名は週報)を、少し見てみますね。

週報のエクセルファイルはフィルタ機能を使って、例えば「生物」の名称で絞り込むことができます。「モズ」や「オナガ」などで。「場所」は、「長田谷津」が多いですが、「じゅんさい池緑地」や「行徳」、「江戸川」、「柏井雑木林」など、市内の様々な場所の記録を見られるので、市川市民であれば、ご自身の自宅や主たる活動場所でフィルタリングして、どんな自然があるのかをチェックするのも面白いかもしれませんよ。

今回は、個体数が激減しており、貴重な種である「ニホンアカガエル」に関する記録をピックアップします。記録総数の多い2022年のファイルを対象に見てみますね。

(ここから引用)※太字は筆者による強調

  • 2022年1月26日  ニホンアカガエルの卵塊を3つ確認しました。今シーズン初めての確認です。発生が進んでいたので数日前に産まれたものだと思われます。
  • 2022年2月11日  昨日から降った雪が積もっている観察園でアカガエルの卵を探しました。雪でも産むことがあるのかは疑問でしたが、丹念に湿地を見て回りました。卵はありませんでした。
  • 2022年2月13日  エコアップ池に1つだけ卵塊がありました。まだ本格的な産卵は始まっていないようです。
  • 2022年2月15日  13日夜は大雪予想でしたが、ほとんど雨になりました。翌日にはニホンアカガエルの卵塊があり、産み足しを考慮してその翌日に数を数えました。全部で16個でした。ピークはこれからのようです。
  • 2022年2月20日 昨日から降り続いた雨でニホンアカガエルの産卵が行われたようで、谷全体で78卵塊を確認しました。もともと産んであったものも含めての数です。生みたての卵がたくさんあったので、2月19日から20日にかけて大規模な産卵が行われた可能性が高そうです。
  • 2022年3月2日  少しずつアカガエルの卵塊が増えています。すでに産んであった卵は、どんどんオタマジャクシになっています。
  • 2022年3月11日  2月に産み落とされた、アカガエルの卵が孵りオタマジャクシが池の底にたくさんいました。ヒキガエルはまだ産んでいませんでした。
  • 2022年3月13日  観察園のハンノキ林にある池でニホンアカガエルが昼間から産卵行動を行っていました。20個体ほどがあつまり蛙合戦を繰り広げていました。オスの鳴き声が園路の上からでもはっきりとわかるほどで、池にはオスの鳴のうが作り出す波紋があちこちに見えました。ニホンアカガエルの産卵を昼間に観察できると思っていなかったので驚きでした。
  • 2022年3月15日  3月13日の日中に産卵行動が見られた場所には、真新しい卵塊が6個ありました。たくさん鳴いていたようなので、オスが多かったのかもしれません。
  • 2022年3月16日  大池(噴水池)の岸辺で、ニホンアカガエルのおたまじゃくしをたくさん見つけました。大池は産卵場所としてノーマークだったので、来シーズンからは、しっかり見ようと思います。アカガエルとホタルは相性がいいので、浅くなった大池の先行きが楽しみです。
  • 2022年9月22日  草刈り作業をしていると、ニホンアカガエルを見かけるようになりました。越冬・産卵に向けた準備態勢になっているのでしょうか?
  • 2022年10月19日  ふれあい農園の田んぼの周りに大きなニホンアカガエルがいました。何匹も見たので、来年産卵するかもしれません。
  • 2022年11月14日  湿地で作業をしていたら、草むらからニホンアカガエルの声が複数聞こえてきました。作業中に成体の姿も確認しました。場所はニホンアカガエルが多数産卵する一帯です。秋に鳴くことで、成体が集まるような効果があるのでしょうか?

(引用ここまで)

太字にした「蛙合戦」というのは、カエルのオスとメスがたくさん集まって産卵をすることですね(わからなかったので調べました)。「かわずがっせん」と読みます。

1月末から3月中旬にかけて、卵塊を初めて確認したところから、どんどん増えていき(78個以上)、孵化したおたまじゃくしを確認するところまで、たくさんの記録が残されています。11月14日の日誌には、観察した(目だけでなく、耳でも観察・・・ではなく、耳の場合は聴察?)ことから浮かんだ疑問を書いてありますね。

なお、2024年の日誌は、現時点(2024年3月23日時点)で、1月4日から3月8日まで64回、記録されています。生物別にみると、登場回数が圧倒的に多いのは、「ニホンアカガエル」で、ここまで6回でした。次いで、「アカゲラ」が3回で2位でした。同率3位は、2回登場した、

  • アズマヒキガエル
  • ウソ
  • ノスリ
  • ヒヨドリ
  • メジロ
  • ルリビタキ

です。

そして、下記の生物たちが、各1回登場しています。

  • アオサギ
  • アナグマ
  • アメリカヒドリ
  • イヌコリヤナギ
  • イラガ
  • ウグイス
  • ウグイスカグラ
  • オオタカ
  • オカヨシガモ
  • カケス
  • カモメ
  • カワセミ
  • キクイタダキ
  • キセキレイ
  • キタテハ
  • クレソン
  • クロガネモチ
  • ゴイサギ
  • コナラ
  • コブシ
  • サワガニ
  • ズグロカモメ
  • スズガモ
  • つくし
  • ツグミ
  • ツミ
  • ニホンズイセン
  • ニワトコ
  • ハシビロガモ
  • ハシボソガラス
  • ハマシギ
  • ハヤブサ
  • ハンノキ
  • ふきのとう
  • フクロウ
  • ミソサザイ
  • ムラサキシジミ
  • ムラサキツバメ
  • モズ
  • ルリタテハ
  • ロウバイ

なお、「ニホンアカガエル」ですが、今年(2024年)は卵塊の数が少なかったそうです。また、学芸員さんが、自然の凄さを感じたエピソードも記述されています。2月25日と3月6日の日誌を引用します。

(引用ここから)※太字は筆者による強調

  • 2024年2月25日  ヘイケボタル生息地の水面が埋まってしまったので、2年ほど前に掘った場所があります。掘った時にコオイムシがいたのにも驚きましたが、この日は、ニホンアカガエルの卵塊が3つあることに気づきました。カエルは、新しい水面をちゃんと見つけていたようです。自然ってすごいですね。
  • 2024年3月6日  おたまじゃくしになっていました。今シーズンは卵塊が少なくて、先行きが心配です。無事、子ガエルになって上陸できるように、水辺の管理を注意して行いたいと思います。

(引用ここまで)

学芸員さんの優しさが伝わりますね。とはいえ、環境を整えておくという程度の優しさであって、言葉は適切でないかもしれませんが、必要以上の保護をするものではないのでしょう。あくまでも自然環境の中で生きる生物に、そっと寄り添うという感じでしょうか。

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というわけで、今回は、自然観察週報に注目してみました。この週報、大変貴重な、そして、とっても興味深い情報のアーカイヴですね。続けること、止めないことの大切さ、偉大さもビンビン感じます。

最後に、大柏川で観察したボラについて記述した、2022年8月23日の日誌を紹介します。市川市の水環境は、1990年代と比べてどうなっていると思いますか?

是非、この日誌を読んでみてください。

日付:22年08月23日(火曜) 

場所:大柏川

生物名:ボラ

できごと:大柏川に大きなボラが何匹もいました。洗剤の泡がブクブクしていた時代から30年足らずです。びっくりですね。

観察者:金子

出所:市川市自然博物館公式ウェブサイト、自然観察週報(2022年)、2024年3月23日閲覧

それでは、また、お会いしましょう!

See Ya !

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〈注釈〉

※1:「日報を超えた、超日報」と書いた時、参考にしたのは、米米CLUBが1991年の1月にリリースしたセルフ・カヴァー・アルバム『K2C』発売時のキャッチコピー「Bestを超えたSuperPopAlbum」でした。

出所:米米CLUB公式ウェブサイト

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執筆日 2024年3月23日
公開日 2024年3月27日