【コラム】もう読みましたか?『千葉ルー』を!

コラム

執筆日 2023年4月19日
公開日 2023年4月21日

冒頭の写真は、私の私物(「私の私物」と書くと、「私」が重複するので、「私の物」か「私の持ち物」、あるいは「私物」と書けば良いということに、書いた後で気付きました)で、『千葉ルー』こと、『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』という長い名前の題を持つ、ノンフィクション・エッセイ本です(左右社、税込1,980円)。著者は済東さいとう鉄腸てっちょうさん。日本人で初めてルーマニア文学作家となった方です。

そんな済東さんの著書『千葉ルー』がどんな内容かというと、帯に記されたこの説明を読んでいただければわかると思います。

わかると思います、と書きましたが、言葉の意味はわかっても、え?一体どういうこと?ルーマニア人3,000人に友達リクエストをした?などと、頭の中や外に大小様々な「?」が次々と浮かんでいるかもしれませんね。読む前の私もそうでした。

概要を知っただけで、「あぁ、わかった、大体わかったよ」という本は、もうその時点で敢えて読もうという気持ちにはなれません。一方、概要を知っても、「いや、よくわかんないんだけど…」と呟いてしまうような本に惹かれます。

だから、買いました。

というのは嘘ではないのですが、実は、これは買うしかない!と思った大きな理由は、済東さんが、生まれてからずっと市川市に住んでいるということでした。しかも…

画像出所:「有隣堂ニッケコルトンプラザ店」公式Twitterアカウントによる、3月1日(水)14時43分の投稿(https://twitter.com/yurindo_ichikw/status/1630806047446425600)

ニッケコルトンプラザ(市川市鬼高)の3階にある有隣堂書店の文芸書新刊台そばのテーブルに陳列された『千葉ルー』の上に設置されていた、この色紙にあるように、済東さんはこの本をコルトンで書いたとのです!別のところで済東さんが書いていましたが、コルトンのフードコート(フードテラス)や、コルトンと向かい合って建っている市川市中央図書館で、書き連ねたそうです。

ということで、買う(という選択)しかない!と思い、すぐに購入し、読んだわけです。

* * * * *

いやぁ、面白い本でした。ひきこもり状態でありながら、Facebookでルーマニア人4,000人くらい(帯には3,000人とありますが、本文には4,000人と書いてあります)に友達リクエストを送るというとんでもない行動をした済東さんは、その後も好機と見るや、清々しいまでの思い切りの良さを発揮します。積極的な対人アプローチが道を切り開く!

第1章「引きこもりの映画狂、ルーマニアに出会う」から、2箇所、私が好きなところを引用します。自分のことを自分で愛するということが大事である、と言うことを考えさせられる箇所です。

 そんななかで一つ思い出すことがあった。大学四年間で最後のゼミ、そこで最後の飲み会だよ。三年いたゼミの教授がパワハラ事件起こしたせいで、別のゼミに行かざるを得なくなってね。それでよく知らん教授の下に、よく知らん他のゼミ生の一緒になって、だからもちろん何の交流も起こることもなかった。なのに最後の飲み会は何か参加しちゃったんだよな。そこでビール飲みながら、妙な酔っ払い方しながら「就活、失敗しました~」とか、結局最後まで名前すら定かじゃない人にヘラヘラしながら言ったんだよ。この軽薄さだけは妙にハッキリ覚えてる。
 つまり、とうの俺自身が傷ついた自分をまともに扱おうとしなかった、不誠実だったってことだな。そんなんだから、四年の末に力尽きて、俺の心は実家の部屋に崩れ落ちる、身動きがとれなくなる。こっから麗しの引きこもり生活が幕を開けたんだ。

出所:済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』(左右社)、P17~P18

 だが俺はこういう「周りと違う自分カッケェ」っていう自意識にもっと優しくなってもいいんじゃないかと思う。この自意識を、思春期の気の迷いから人生における美学へと育んでいくやつがいてもいいんじゃないかと思う。俺はそうやって独我論みたいなものを突き詰めてこそ辿りつける、未知の領域があるんじゃないかと思ってる。
 だから俺はこの「周りと違う自分カッケェ」というナルシシズムに、人生そのものを賭けた。そしてそれはルーマニアとルーマニア語に人生を賭けるということでもあったんだ。

出所:済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』(左右社)、P24

最後の方には、一人称「俺」を使うことについて、切々とつづった箇所があります。ここでも、ナルシシズム、自己愛というものは、大切なものだと書いています。

中二病的な自意識を大切にして、楽しいと思えることがあることに感謝しつつ、それに没入すること。まさに中二的。その延長に、ルーマニア語で小説を書くことなどがあった。そんな済東鉄腸さんが上梓した『千葉ルー』を、是非コルトンプラザで買って(お金がない人は市川市中央図書館で借りて)読んでみてください!

済東鉄腸さん、物凄く応援しています!

有隣堂ニッケコルトンプラザ店さん、画像を引用させていただきました。ありがとうございます!たびたび訪れて本を購入していますよ。福家書店さんが閉店して嘆き悲しんでいた時、出店すると知った時、救世主だと思ったものです!

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