公開日 2022年1月12日
2023年の三が日が終わった直後、1月4日に、「【コラム】できることは私の足元にある」という記事を公開しました。本日は、このコラムの内容と深くかかわる内容の文を綴ろうと思います。「コラム」というカテゴリーにしても良いのですが、あえて「フードバンク」としています。しかし、本稿のテーマは、街におけるコミュニティのことを考えることでもあるので、まぁカテゴライズにはさほど意味がないと思ってください。
イギリスにおけるコミュニティの形成や共生に対する人々の意識への興味
このコラムで、元旦の千葉日報に掲載されていたブレイディみかこさん(ライター)と藤原辰史さん(歴史学者)の対談記事から、印象に残ったフレイズを取り上げ、紹介して以来、ブレイディみかこさんが生活するイギリスにおける、コミュニティの形成や、共生に対する人々の意識に、興味を持つようになりました。
- コミュニティーカフェみたいなところで肌の色や文化の違う人たちが交ざり合って時間を過ごす中で他者への想像力が働く
- 「安心とはトップダウンではなく、ボトムアップであってこそ、持続的でありうる」と藤原辰史さんが「縁食論」に書いていた
- 英国には春先に各家がいらなくなった洋服や玩具などを段ボールに詰めて家の前に置き、欲しい人がそれをもらう習慣があったが、コロナ禍以降これが常態化した
情報出所:千葉日報「対談:分断を超える 他者と分かり合う」(2023年1月1日、16面・17面)
※ライターのブレイディみかこさんと歴史学者の藤原辰史さんによるオンライン対談
「コミュニティーカフェ(コミュニティカフェ)」というものが何なのか、今一つよくわかっていませんが、営利だけを追求するカフェではなく、公的な役割や福祉的な意味合いを有するカフェなのかな、と、何となく思っています。もし誤っていたら、違うよ!コミュニティカフェっていうのは、こういうものだよ!と、教えてください。
イギリスのコミュニティカフェ、チャリティショップ
さて、コミュニティカフェについて調べていたら、イギリスで生活をしている人が書いた日本語の文章に出会いました。
また、私が以前ボランティアをしていた地元のコミュニティカフェは「外出できずに孤独な高齢者が大勢いる」ことをラジオ番組で知ったジルさんが一人で立ち上げたものでした。
調理も送迎も接客も、すべてボランティアだけで賄うカフェ。食品の仕入れの多くは、スーパーや食品店、レストランが廃棄処分にする前のものを、格安または無料でチャリティ団体に渡してくれるものを利用します。
私の仕事は椅子やテーブルを並べたり、注文の品を運ぶほか、カフェに来た人と話をすること。回数を重ねる毎に顔なじみが増え、90歳を超えるティムさんは、帰り際にハグをしてくれるようになりました。週にわずか3時間ほどのボランティアの後は、何より私自身の元気が充填されるのを毎回感じていました。
出所:BRITISH MADE、「English Garden Diary|Love actually is all around - イギリスの日常にあふれるチャリティ」(2022年12月20日)、https://www.british-made.jp/stories/lifestyle/202212200058591、2023年1月8日 太字は筆者
上で引用したのは、Mami McGuinness さんによるコラムというかエッセイです。
イギリスでは気軽にボランティアができるということを本で読んだことをきっかけに、36歳の時にイギリスにやってきた Mami さんは、イギリスに住むようになり、日常生活の中に当たり前のように「チャリティ」があることに気付きます。
ただ、私がイギリスに住むようになってほどなく気づいたのは、「イギリスでは、チャリティが街中に、そして人々の日常の暮らしの中にあふれている」ということでした。つまり、クリスマスや歳末だけでなく、この国では、いつどんな時にでも、チャリティが身近にあるのです。
たとえば、それぞれの街の商店街には必ずといっていいほど、「チャリティ・ショップ」と呼ばれるお店があります。名前通り、そこはチャリティを行う組織や団体によって運営されているお店です。一般の人々から寄付された中古の本、衣服、食器やDVDなどを販売して、その売り上げが慈善事業に活用されるというシステムです。
チャリティとはいえ、ショーウィンドウはきれいにディスプレイされ、洋服の試着もでき、一般のお店となんら変わりません。違うことといえば、店員さんの多くがボランティアだということです。渡英後すぐ、私はチャリティ・ショップの魅力に開眼。なんといっても、ウェッジウッドのディナー・プレートが2ポンド(300円足らず)とか、ローラアシュレイのワンピースが6ポンドとかの安さで売られているのが、予算を切り詰めて生活している留学生には大いなる味方となりました。
出所:BRITISH MADE、「English Garden Diary|Love actually is all around - イギリスの日常にあふれるチャリティ」(2022年12月20日)、https://www.british-made.jp/stories/lifestyle/202212200058591、2023年1月8日 太字は筆者
近所に、ボランティアが働くチャリティショップやコミュニティカフェがあり、気軽に利用できるということは、(※1)息苦しさが少なく、閉塞感があまりない社会なのかもしれません。週に3時間程度であっても、そのような場で働き、役割を持つことで、地域の人と交流し、充実感を得ることもできる点も魅力的です。
市川市では、市内に長く住んでいても、顔の見える他者と言葉を交わし、つながりがある、という状況にはない人はとても多いと思うので。
食品ロスと貧困、2つの問題に取り組むカフェ「ガーデナー」
イギリスのコミュニティカフェに関する情報をインターネット上で探していたら、FIGAROというオシャレな雑誌のWebサイトに、興味深い記事を見つけました。
madame FIGRO.jp 世界は愉快|フードロス編 from イギリス
フードロスに一石を投じる、イギリスのカフェの挑戦。(2021年10月7日)
https://madamefigaro.jp/series/yukai/211007-gardener.html
この記事では、イギリスのブライトンにある「ガーデナー」というコミュニティカフェ(冒頭の画像は公式Instagramからの引用です。 https://www.instagram.com/thegardenerbrighton/)が、食品ロス問題と貧困問題の両方を解決しようと試みていることについて紹介していました。以下、箇条書きで引用します(赤色太字は私が「ここ、重要!」と言いたい箇所であることを意味します)。
- イギリスでは年間1500万トンの食品が廃棄されている
- 近年は食品ロス対策が広まってきている
- 例えば、残った食べ物を閉店直前に大幅に割り引いてテイクアウトで売るデリやカフェを知らせしてくれるアプリが人気を博したり、スーパーなどから寄付された余剰食材を格安に販売するコミュニティ・フリッジが全国に設置されている
- ロンドンから75kmほど南にあるブライトンのカフェ、「ガーデナー」の取り組みがユニークである
- このコミュニティカフェでは、レストランや近隣の農家で不要になった食品を引き取っている
- その食品を使ってヴェジタリアン・ランチをつくり、提供している
- その他、コーヒー、紅茶、ソフトドリンク、マフィン、ペストリーなどもある。
- ユニークなのは、値段を買い手各自が決める「Pay as you feel」(あなたが感じたままに支払う)というシステムを取っている点だ
- カフェを運営する「リアル・ジャンク・フード・プロジェクト」は、「食品ロス問題」と、「貧困により食品を十分に入手できない人たちの問題」に取り組んでいる
- カフェ「ガーデナー」はその2つの問題を緩和するためのプラットフォームになってもいる
- 「寄付された残り物で作っているのに、お金をとるの?」と感じる人もいるかもしれないが、そこには運営者たちの深い想いがある
- 人々を分断させないために「Pay as you feel」システムを採用しているのだという
- 貧富の差を理由に「あなたは支払わなくていい」と誰かを除外するのではなく、たとえほんのわずかであっても負担できる額を払うことで、ひとりひとりを尊重して平等とするという考え方に基づいている
- ランチを作るために必要なお金(寄付された食材を集めるための車の維持費やガソリン代、店舗の家賃や調理の光熱費)に充てるために、そして、カフェで働くボランティアたちの労力に敬意を示すために、人々は自分たちの懐具合に合わせた金額を払っている
情報出所:madame FIGRO.jp、「世界は愉快 フードロス編 from イギリス フードロスに一石を投じる、イギリスのカフェの挑戦。」(2021年10月7日)、https://madamefigaro.jp/series/yukai/211007-gardener.html、2023年1月8日閲覧
少しであっても支払ってもらうことにしているところに、貧富に差はあっても、それが理由で人々が分断されてしまうことは良くないのだ、という強い意思を感じます。
日本では物価上昇幅の大きさ(上昇率の高さ)が40年ぶりを記録しており、所得が増えない人が多い状況であるため、生活が苦しくなっている人が増えている可能性が高いです。
先日公開した「フードバンクにゅ~す」では、フードバンク仙台さんの活動を紹介し、「日本でもライフラインが停止してしまった人が目立っています」と書きました。
イギリスでは政治の混乱もあり、日本以上に生活が苦しくなっている人が増えています。救急隊員や緊急電話の応答係などが昇給を求めるストライキを行ったことは大きく報じられました。行政に圧力をかける労働者というのはいかにもイギリス的なシーンという感じもします(日本的ではない?日本的とは?労働者は声を上げないと雇い主に搾取される一方なのでしょうか?)。
上の「フードバンクにゅ~す」でも取り上げましたが、現在、光熱費が高騰しているイギリスでは、フードバンクならぬ、ウォームバンクという、暖かい場所を無償で提供するサービスを提供する場所(図書館やコミュニティーセンター、教会など)が増えています。これは、イギリスにチャリティ精神が根付いていること、困ったら助け合うという共生の意識が強いことなどが前景化したものだと思います。
公共施設である図書館は誰も排除しないのか?
話は変わりますが、先日、日本の図書館について調べていたら、こんな文章に出会いました。太字は私が強調するために施したものですが、その箇所は、かなり強烈な表現です。
その図書館は大きな公園の近くにあります。この公園では路上生活を送るホームレスの人たちやハウジングプアの人たちへの炊き出しや生活相談会などが定期的に行われており、隣接するこの図書館は、彼らにとって、雨風をしのげる安全な居場所であり、ひとときの娯楽の場であり、日雇いの仕事や支援の情報を得るための場にもなっていたそうです。図書館側も彼らを排除することはなく、男性用トイレなどの手に取りやすい場所で、支援情報を掲載した『路上脱出・生活SOSガイド』というパンフレットを配布するなど、ホームレス支援を意識した活動が長く営まれていました。
しかし、この図書館で新型コロナ対策として入館時に来館者名簿を作成するようになってから、ホームレスの人たちの利用は日を追って減っていったそうです。身分証の提示を求めているわけではありませんが、それでも、住所や氏名の記入を求めることは、彼らに入館をためらわせ、諦めさせるのに十分なのでしょう。
図書館がいくら知る自由を保障すると宣言しても、それが入口のゲートの向こうの世界だけのことでは意味がありません。来館時に身元を特定されたくない人は、ホームレスの人たち以外にもいるかもしれません。コロナ禍は、図書館の自由が「入館の自由」の上に成り立つことを改めて気づかせてくれたように思います。
出所:自治体問題研究所公式Webサイト、山口真也「【論文】コロナ禍が問う「図書館の自由」─ホームレス・女性・非正規雇用という視点から」(2022年10月5日)、https://www.jichiken.jp/article/0290/、2023年1月3日閲覧
図書館の機能、役割、そこにある意味ということを、これまで深く意識したことはありませんでした。全くないわけではありませんが、少し考えてみても、すぐにその思考をストップしてしまうという具合です。
上の論考を読み、ありきたりな言葉をあえて使うならば、考えさせられました。
そして、改めて「ベルリンうわの空」という本を読もうと思いました。
いつもの2倍くらい、とりとめのない文章になりましたが、次回はとりとめのある文章を書くように心掛けます。それでは、ごきげんよう!
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〈注釈〉
※1:本編の(※1)には、当初、以下の文言が存在していましたが、削除しました。
〈儲かっている一部の企業や人たちが更に潤い、それ以外の人は我慢に次ぐ我慢を余儀なくされ、苦しみ続ける、この先に希望が見えない社会とは違い、〉