映画『はりぼて』――富山市議会議員の政務活動費不正使用
Amazonプライム・ビデオで映画『はりぼて』を見ました。この映画の公式Webサイトから作品解説の一部を紹介します。
2016年8月、平成に開局した若いローカル局「チューリップテレビ」のニュース番組が「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」とスクープ報道をした。この市議は“富山市議会のドン”といわれていた自民党の重鎮で、その後、自らの不正を認め議員辞職。これを皮切りに議員たちの不正が次々と発覚し、半年の間に14人の議員が辞職していった。
その反省をもとに、富山市議会は政務活動費の使い方について「全国一厳しい」といわれる条例を制定したが、3年半が経過した2020年、不正が発覚しても議員たちは辞職せず居座るようになっていった。記者たちは議員たちを取材するにつれ、政治家の非常識な姿や人間味のある滑稽さ、「はりぼて」を目のあたりにしていく。しかし、「はりぼて」は記者たちのそばにもあった。
出所:映画『はりぼて』公式Webサイト、https://haribote.ayapro.ne.jp/about.php、2023年6月11日閲覧、太字は筆者
チューリップテレビの取材により富山市議会議員の政務活動費の不正使用が次々と明らかになる展開に、呆れて笑ってしまいました。記者に不正を指摘された議員が、「でも、みんなやっていますよ」と、開き直って本音を言う場面では、「バレなきゃいい」、「バレたら開き直ればいい」という考えで日常的に不正行為を働いていたことがうかがえ、実に恐ろしいことだと思いました。
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市川市議会議員の政務活動費(議員交付)の支出と残高 令和3年度版
ところで、政務活動費ですが、市川市では会派(公明党、日本共産党、自由民主党)に交付されているものと、議員交付のものがあります。令和3年度は、前者が16名、後者は26名でした。令和3年度における議員交付金は1年間で96万円で、使い切らなかった残額は市に返還することになっています。
下図の1~26は実際には議員の名前が入りますが、ここでは名前は出していません。令和3年度の政務活動費収支報告のWebページ(https://www.city.ichikawa.lg.jp/cou02/0000408623.html)に載っていますよ。
100%使い切っている議員は5名(後に登場するA議員やD議員が含まれています)、99.99%、99.82%が各1名です。意義のあることに使ってくれればそれで(それが!)良いと多くの市民が思っていますよ、多分。交付された活動費で、私たち市民にはできないような調査などをして、市を良くすることに生かしてください!私たち市民の代理人として!
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政務活動費で大量の切手を買った市川市議会議員をめぐるあれこれ
実は、かつて、市川市議会議員が政務活動費で切手を大量に買ったことがあり、その行為が問題視されたことがありました。盛んに報じられたので記憶している人もいると思います。当時の記事のリンクを張っておきます。
千葉日報(2015年10月9日)
小泉議員が宣誓拒否 購入の切手、使途尋問 市川市議会百条委
https://www.chibanippo.co.jp/news/politics/282234
市川よみうり&浦安よみうりonline(2015年11月21日)
「アンケート関わっていない」「切手は後援会の会報に使った」切手購入の青山氏 百条委で証言
http://www.ichiyomi.co.jp/top/2015_1121.html
この時、当該議員に対して調査が行われました。この時の記録は市川市公式Webサイトに文書が公開されています。
市川市公式Webサイト(更新日2021年11月5日)
政務活動費等により切手を大量に購入した議員の調査に関する特別委員会
https://www.city.ichikawa.lg.jp/cou01/1111000265.html
この委員会の目的は、事実関係を委員会における調査を通じて明らかにすること、市民に対する説明責任を果たすこと、政務活動費の使途の透明性の向上へ向けた議論に役立てることでした。調査報告書が2016年に作成され、公開されています。
政務活動費等により切手を大量に購入した議員の調査に関する特別委員会
調査報告書
平成28年9月26日
https://www.city.ichikawa.lg.jp/common/000241033.pdf
調査報告書には〈「議員が議員を調査する」様相を呈した本調査が行われることに、いささかの躊躇すら覚えているところである。〉、〈議会及び議員には、本件政務活動費等の適正な使用について疑義が生じている以上、事実関係の解明ないし真相を究明することが市民より求められていることは、いうまでもない。〉等と記されています。
さて、切手を大量購入したことについて、当該議員はアンケートの実施に際して使用するためと説明しています。「アンケート返信用はがき」に切手を貼付したということでした。ちなみに、料金を後納する方法も考えたものの、受け取り時に手数料がかかること、受け取りの手間がかかることから、切手を使用することにしたとのことです。
それにしても、「アンケート返信用はがき」とは…。「はがき」の裏面(宛先の郵便番号や住所が記されていない面)に掲載できる質問数は限られますよね。たまにチェーンの飲食店のテーブルに、利用客がお店を利用した感想、評価を答えるアンケートはがきが置いてありますが、議員はあのようなアンケートはがきを作っていたのでしょうかね。
アンケートは、平成(報告書内で年次が和暦で記されているため、ここでもそれに倣います)24年3月から平成26年2月までの約2年の間に行われています。計8回。多いですね。
平成24年3月
↓2か月
平成24年5月
↓7か月
平成24年12月
↓2か月
平成25年2月
↓1か月
平成25年3月
↓2か月
平成25年5月
↓6か月
平成25年11月
↓3か月
平成26年2月
3月と5月、12月と2月というふうに、調査と調査の間隔が短いものもあります。3月と5月では年度が違うのだ、12月2月は年が違うのだ、そんな理由が見え隠れしますが、さぁ、どうでしょうか。
各回のアンケートの実施における80円切手の購入枚数は以下の通りです。
平成24年3月 6,000
平成24年5月 6,000
平成24年12月 9,000
平成25年2月 9,000
平成25年3月 4,000
平成25年5月 6,000
平成25年11月 7,000
平成26年2月 4,000
このことは、毎回数千人に対してアンケートはがきを配布していたということですね。
また、平成24年3月以外の7件のアンケートの回収率は以下の通りです。
平成24年5月 約98%
平成24年12月 約91%
平成25年2月 約96%
平成25年3月 約94%
平成25年5月 約52%
平成25年11月 約59%
平成26年2月 約93%
回収率が9割を超えるアンケートが5件もあります。仕事柄、アンケート調査に関わる機会は多いのです(大学の研究室時代の3年間を含めれば通算20年超、社会人になってからでも18年6か月に渡って調査に携わっています)が、郵送式アンケート調査で回収率がこれほど高いものを見たことは1度もありません。しかも数千名規模で行っている大規模郵送調査です。
ちなみに(Part1)、
調査に携わる機会が多い私としては、純粋にアンケート内容に興味があります。
ちなみに(Part2)、
市川市が公式に実施しているアンケート、eモニ調査は、各回の回答者数が1,000人超ですから、このA議員ならびに会派による調査の方がよほど多くの市民の声を聞くことができますよね。
ところで、8件のアンケートのうち、最初(最古)の平成24年3月アンケートに関しては、見積書、請求書、納品書、領収書の写しの「4点セット」が提出されていますが、これより後に実施された7件のアンケートについては「4点セット」が提出されておらず、このことを報告書では「不自然」としています。A議員は7件について廃棄済みだとしている、とも書かれています。
この特別委員会は、A氏、B氏、C氏、D氏に証人としての出頭を求めており、出頭できなかったB氏を除く3名に対して証人尋問を行いました(B氏は出頭を求められた5回全て体調不良で出頭しませんでした。これは正当な不出頭理由と見なされています。なお、報告書にはA~D氏の氏名が書かれています)。
証人尋問でD議員は、次のように述べています。
- 当時は政務活動費等について熟知しておらず、また、市内出張に関する政務調査費の精算をしていたところ、A議員に、そんな面倒くさいことをすることはない、切手を買って換金すれば済む、C議員もみんなやっていると言われ、そうかと思い、切手を購入した。
報告書内では、このD議員の発言が必ずしも事実を述べたものとは言い切れない、というようなことが書かれています。この箇所についてのみならず、白か黒かわからない、という書き方が多数みられます。特別委員会は調査をするものであって、捜査をするものではない、ということから、限界があるということも。
それはさておき、D議員の述べた、「みんなやっていると言われ」という部分は、映画『はりぼて』に登場した富山市議会議員の発言と重なるのですよね。いやはや。
政務活動費を大切に使おうという意識
映画『はりぼて』の共同監督を務め、出演もしている砂沢記者の発言を紹介します。
「政活費は本来、議会活動の報告会や視察などに使うものです。しかし、多くの市議は税金だから大切に使おうという意識がなかった。領収書を偽造してでも、上限の1人月15万円まで使い切るのが当たり前になっていました。富山は『自民王国』とよく言われますが、こうした不正は自民党以外の会派にも広がっていました」
出所:朝日新聞デジタル、「不正議員だけが『はりぼて』か 有権者の諦めが生む腐敗」(2020年11月3日、砂沢智史さんの発言)、https://www.asahi.com/articles/ASNBY4RKPNBRUPQJ00M.html、2023年6月11日閲覧、太字は筆者
一部の議員の中で不正が「当たり前」になっていること、それは、「不正のカジュアル化」と、このことによる「政治の腐敗」をもたらしますよね。もたらしませんか?「みんなやっているから」と言う議員がいて、それをすんなり「そんなもんか」と受け入れる議員がいる議会。そこは、「いやいや、そうじゃないでしょう、そんなの駄目ですよ」と言ってほしいところです。議員の皆さんには、私たちの代理人であるという事実を日々噛みしめてほしいと思います。
映画『はりぼて』公式Webサイト
https://haribote.ayapro.ne.jp/
富山市議会が特殊な珍しい事例なのか、それとも、政務活動費にまつわる不正は市川市議会でもおこなわれていた(いる)のか。市民には議会を監視する役割がありますが、監視しようにも何をすれば良いのかわかりませんよね、実際のところ。私もわかりません。調べてみます。そして何かわかったら記事にします。
映画『はりぼて』、是非視聴してみてほしいです。政治家の皆さんや役所勤めの皆さん、それ以外の皆さんに。「まちづくり」に大いに関係する内容です。
「政務活動費等により切手を大量に購入した議員の調査に関する特別委員会」調査報告書で気になる点
さて、そろそろ本稿を終えるとします。が、上で紹介した報告書を読んでいると、色々と気になる点が次々出てくるので、少しだけ気になる点を挙げてみることとします。強調箇所を太字にしています。
- A議員によれば、回答用はがきは、A氏の小学校の同級生、知人、後援会のメンバー、各種法人・団体等に協力してもらったとのこと
- 街頭や駅頭での不特定多数の者への配布の形式をとったのか、後援会メンバー等のリストを利用して特定多数の者への配布の形式をとったのか、配布の期間や場所など、詳細については必ずしも明らかではない
- 本件アンケートについて常識的には考えられないような回収率の高さが認められる
- 一部の委員の指摘として、自分たちが行った不特定多数の者への市政に関するアンケートについて引き合いに出された回収率(約1%)に着目すると、少なくとも不特定多数の者のみを対象にしたアンケートではなかったものと推測できる
- 後援会リスト等を使用して特定多数の者のみを対象としたアンケート、または、街頭配布等の方法を併用しつつも、対象者の大部分が特定多数の者であるアンケートであったことが推測できる
- A氏が担当したとされる分だけでも3,000枚という決して少ないとはいえない枚数のはがきを短期間で配布したことになるが、不可能とまではいえないものの、果たして本当に配布できるものなのかどうか、違和感を覚えざるを得ない
- 現在に至るまで、実施済みのアンケート回答用はがきが1枚すら本委員会に提出されていないこと、はがきの配布等を目撃したと証言する者が1人も名乗り出てこないことは、極めて不自然であると評価せざるを得ない
- 多くの委員から、アンケートの規模の大きさ、アンケート配布における後援会メンバー等との協力関係等にも鑑みると、目撃証言や伝聞証言の顕出、あるいは、配布先リストの提出等があってしかるべきなのに、実際は全くなく、配布先リストの提出等は容易にできるものであるにもかかわらず何一つ提出されていないという現状を踏まえれば、はがきの配布について疑惑が深まるのも無理からぬことであるという旨の指摘がなされている
気になりますね。気になります。
この特別委員会では切手の大量購入について調査をしていたわけですが、政務活動費の使用が正当か不正かに関わらず(いや、不正だったら、アンケートを実施していなかったら、そりゃもう話にならないので、ちゃんとアンケートを実施していたのであれば、ということですが)、数千人規模のアンケートを2年間に8件も実施している議員がいるということは、広く知られてしかるべきだと思うわけです。
A議員は現役の市議会議員です。今もこのようなアンケートを実施しているのでしょうか。是非、政務活動費を適切に使用して、数千人規模の調査を実施し、貴重な調査結果を市政に反映してほしいものですね。
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執筆日 2023年6月11日
公開日 2023年6月19日